「最初の1か月は、赤くなったり皮がむけたりします。でも、それを越えると変わります」
いわゆる「A反応」の説明です。そして、この説明そのものを確かめた試験があります。
結果は、素直に受け取ると、少し落ち着かないものでした。
基剤(vehicle)と比べた試験
トレチノイン0.05%のローションを、胸のエイジングケアに使った試験です(PMID: 35674757)。無作為化・二重盲検・基剤対照で、29人が180日間を完了しました。
「基剤対照」とは、有効成分だけを抜いた、同じ土台のクリームと比べる、という意味です。
この試験の基剤には、ヒアルロン酸ナトリウム・可溶性コラーゲン・グリセリンが含まれていました。つまり、しっかりした保湿剤です。
整理すると、こうです。盲検化された評価者による平均改善率は、実薬群・基剤群のどちらも180日目に30〜40%であった。 9段階の光老化・しわのスケールでは、両群とも経時的に有意な変化を示した(実薬 p < 0.001、基剤 p = 0.007)。 Fabi Boltonしわスケールでは改善傾向が見られたが、どの時点でも統計的な有意差はなかった。
90日目、実薬群は基剤群より有意に紅斑が多かった(p < 0.001。ただし両群とも軽度)。 180日目の満足度は、実薬群 2.38、基剤群 2.30 と、ほぼ同じであった。
改善は、両群に出た 赤みは、実薬群に多く出た 満足度は、同じだった
もう1本、同じ方向の結果
1927nmレーザーに、トレチノイン0.05%ローションを足す群と、基剤を足す群を比べた試験もあります(PMID: 34784124・非無作為化です)。
両群とも、色素沈着と光老化が有意に改善した(p < 0.001)。 しかし、投与者評価・被験者評価のいずれの尺度でも、群間に有意差は認められなかった。 唯一の例外は——レーザー後30日の時点で、トレチノイン群のほうが自己評価の改善度と満足度が有意に低かった(改善度 p = 0.009、満足度 p = 0.001)。
足したほうが、その時点では満足度が低かった、ということです。
著者らは「今後の研究では、より長期の使用、あるいはより高い濃度で検討する必要がある」と書いています。つまり、この条件では差が出なかった、という報告です。
では、レチノイドは効かないのか
そうは言いません。ここは、正確に線を引きます。- ①②は、それぞれ29人・単施設の試験です
- ①の対象は胸部で、顔ではありません
- ②は非無作為化です
- そして——外用レチノイドが光老化に働くこと自体は、何十年も積み上げられてきた領域です
この2本が揺さぶっているのは、「レチノイドが効くか」ではありません。
「刺激が出ている期間は、効いている証拠だ」という説明のほうです。
①では、刺激だけが実薬群に多く出て、改善と満足度は基剤群と変わりませんでした。②では、足したほうが一時的に満足度が低くなりました。
基剤の力を、見落としていないか
①で、いちばん考えさせられるのはここです。
基剤——ヒアルロン酸・コラーゲン・グリセリンを含む保湿剤——だけで、30〜40%の改善が出ています。
「レチノイドで良くなった」と感じているものの中に、一緒に使っている保湿剤の分が含まれている可能性があります。
そして、これは悪い知らせではありません。刺激で続けられない方にとっては、「土台の保湿だけでも、測れる変化は出ている」ということだからです。
保湿について確かめられている範囲は保湿の記事に、濃度の話は化粧品の浸透の記事に書きました。
実際に、どう使うか
①②から素直に導けることだけを書きます。 「赤くなること」を、目標にしない①で、紅斑が多かったのは実薬群です。そして改善は両群に出ました。赤みの強さと結果の良さは、この試験では結びついていません。
続けられる濃度・頻度に落とす週2回で3か月続くほうが、毎日使って1週間でやめるより、届く総量は多くなります。 これは浸透の記事に書いた話と同じです。
保湿を、同時に厚くする④のとおり、基剤の寄与が小さくありません。レチノイドの前後に保湿を挟む使い方には、この試験からも理屈が通ります。
判断は、180日で①の評価点は180日です。1か月で見切るには、早すぎます。 時間軸の話はターンオーバーの記事へ。
日中の紫外線対策を、必ずレチノイド使用中は、光への感受性が高まります。 日焼け止めの記事へ。
妊娠を考えている方へ外用のレチノイドは、妊娠を計画する段階で扱いを決めておく必要があります。「妊娠が分かってからやめる」では、順番として遅い場合があります。 妊活を始める前に肌の治療を組み替える記事に、仕分けの手順を書きました。必ず処方した医師にご確認ください。
まとめ
- 基剤対照の試験で、実薬群も基剤群も180日目に30〜40%改善しました(PMID: 35674757・n=29・胸部)
- 90日目、実薬群は基剤群より有意に紅斑が多く、180日目の満足度は同じでした
- レーザーとの併用試験でも群間に有意差はなく、30日時点ではトレチノイン群の満足度が有意に低いという結果でした(PMID: 34784124・非無作為化)
- この2本が揺さぶるのは「レチノイドが効くか」ではなく、「刺激は効いている証拠だ」という説明のほうです
- 基剤(保湿剤)だけで30〜40%の改善が出ている——刺激で続けられない方にとっては、良い知らせでもあります
- 赤くなることを目標にしない。続けられる頻度に落とす。保湿を同時に厚くする。判断は180日で
- 妊娠のご予定がある方は、始める前に扱いを決めてください
「我慢すれば報われる」とは、この2本には書かれていませんでした。書かれていたのは、「土台を整えることの寄与が、思ったより大きい」ということのほうです。
この記事で触れた医薬品について(医療広告ガイドラインに基づく記載)
トレチノイン外用剤- 国内では、美容目的(光老化・しわ・色素沈着)での承認を受けていません。 本記事で引用した試験は、いずれも海外で行われたものです。
- 入手経路: 国内で用いられる場合、医師の責任のもとで輸入されたもの、または院内で調製されたものが使われます。厚生労働省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」 もあわせてご確認ください。
- 国内承認品の有無: 同一の効能・効果で国内承認されている外用医薬品はありません。
- 諸外国での承認と安全性情報: 米国等でにきび・光老化に対して承認されています。日本国内の承認とは別のものです。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
主なリスク: 紅斑・皮むけ・乾燥・ヒリつき(本文①のとおり、基剤より有意に多く生じました)、光への感受性の亢進、色素沈着。妊娠中および妊娠を計画中の方には使用しません。
参考文献- A Prospective, Randomized, Double-Blind, Vehicle-Controlled Study Evaluating the Efficacy, Safety, and Patient Satisfaction of Tretinoin 0.05% Lotion for Chest Rejuvenation. J Drugs Dermatol. 2022. PMID: 35674757(n=29・胸部・基剤群も30〜40%改善)
- Single-Center, Prospective, Double-Blind, Evaluator-Blind, non-Randomized, Vehicle-Controlled Trial With a 1927 Nm Non-Ablative Fractionated Laser and Topical 0.05% Tretinoin Lotion. J Drugs Dermatol. 2021. PMID: 34784124(非無作為化・群間有意差なし)
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院は診療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

