「保湿が大事、とよく聞きます。どこまで本当ですか」
★この問いには、2段階の答えがあります。
★①乾いている肌を潤す — これは、します ★②保湿していれば、皮膚の病気を防げる — ★こちらは、大規模な試験で否定されています
★そして②のほうは、否定されただけではありませんでした。 順にお話しします。
①まず、保湿剤が何をしているか
保湿剤の働きは、大きく3つに分けられます。
- 水分を抱える(グリセリン、ヒアルロン酸など)
- 蒸発を防ぐ膜になる(ワセリン、油分など)
- 角層の脂質を補う(セラミド、コレステロール、脂肪酸)
★皮膚は、水分を通さないために作られた構造です。 その構造の話は化粧品の浸透の記事に書きました。★保湿剤の主な仕事は「入れる」ことではなく、「逃がさない」ことです。
乾いた肌に塗れば、水分量は上がります。 ★ここは、争点ではありません。
②★「保湿していれば予防できる」を、大規模に確かめた人たちがいます
この10年、「生まれてすぐから毎日保湿すれば、アトピー性皮膚炎を予防できるのではないか」という仮説が、大規模な無作為化試験で検証されました。
PreventADALL(2020年・Lancet)(PMID: 32087121)
ノルウェーとスウェーデンで、2397人の乳児を対象に、生後2週から保湿剤(入浴剤と顔用クリーム)を使う群と、特別な指示をしない群を比較。 ★12か月時点のアトピー性皮膚炎は、保湿群 11%、対照群 8%。 ★リスク差 3.1%(95%信頼区間 -0.3〜6.5)で、★対照群に有利な方向でした。 結論:早期の保湿剤も早期の補完食も、12か月までのアトピー性皮膚炎の発症を減らさなかった。
BEEP(英国・5年追跡)(PMID: 39021147)
1394人の高リスク乳児。生後21日以内から1年間、毎日全身に保湿剤。 ★2歳時点の湿疹は 23% 対 25%(調整相対危険度 0.95、95%信頼区間 0.78〜1.16)。 ★★保湿群では、皮膚の感染が増えました(調整発生率比 1.55、95%信頼区間 1.15〜2.09)。 食物アレルギーも、増える可能性が示されました(7.5% 対 5.1%)。 ★5歳までの追跡でも、群間に差は見られませんでした。
③★そして、コクランがまとめました
2021年のコクランレビューが、この分野の試験を集めています(PMID: 33545739)。
★★33の無作為化比較試験・25,827人が対象。
★乳児期のスキンケア介入は、1〜2歳時点の湿疹のリスクを、おそらく変えない (相対危険度 1.03、95%信頼区間 0.81〜1.31・★中等度の確実性)
★★乳児期のスキンケア介入は、介入期間中の皮膚感染のリスクを、おそらく増やす (相対危険度 1.34、95%信頼区間 1.02〜1.77・★中等度の確実性)
★「まだ分からない」ではありません。 ★「中等度の確実性で、変わらない」というところまで来ています。
④★ただし、逆の結果を出した試験もあります
公平を期すために、書いておきます。
STOP-AD(2022年)(PMID: 35997592)は、逆の結果でした。
高リスクの乳児321人。★生後8週間だけ、専用に処方された保湿剤を1日2回。 ★12か月時点のアトピー性皮膚炎の累積発症は 32.8% 対 46.4%(相対危険度 0.707)。 介入期間中の皮膚感染に、有意差はありませんでした(5.0% 対 5.7%)。
★「短期間だけ」「高リスクに絞って」という設計が、他と違います。
★ただし、読むときの注意も2つあります。
- ★321人で、脱落が61人(介入群41人・対照群20人)と、片方に偏っています
- ★著者2名が River D International B.V. 所属です
★そして、③のコクランには25,827人が入っています。 ★1本の小規模な試験が逆を出しても、全体の結論は動きません。
⑤★★ここが、いちばん大事な線引きです
★②③④は、すべて「乳児における、病気の予防」の話です。
★★「いま乾いている大人の肌を、保湿剤が潤すかどうか」とは、別の問いです。
★そして私は、乾燥している方には保湿をお勧めします。 ★理由は、①に書いたとおりです。
★否定されたのは、「保湿していれば病気にならない」という、一段大きい主張のほうです。
この2つを混ぜて「保湿は無意味だった」と読むのは、正確ではありません。 ★同じように、予防の根拠が無いのに「保湿すれば何でも防げる」と書くのも、正確ではありません。
★アトピー性皮膚炎の治療として保湿を指示されている方は、自己判断で中止しないでください。 ★治療としての保湿と、健康な乳児への予防としての保湿は、別の話です。
⑥★実際に、どうするか
線引きができたところで、日々の選択に落とします。
乾燥しているなら、塗る★水分量は上がります。 使い心地で続けられるものを選ぶのが、いちばん現実的だと思います。
「たくさん塗るほど良い」ではない★BEEPで皮膚感染が増えたことは、覚えておいてよいと思います。 ★厚く塗って蒸れる状況は、別の問題を作ります。 高温多湿の時期の話はマラセチア毛包炎の記事に書きました。
洗いすぎのほうを、先に見る★保湿を足す前に、落としすぎていないかを見るほうが、順番として先です。 洗顔の記事に書きました。
「やめてみる」を考えているなら肌断食の記事に、確かめられている範囲を書きました。
飲むほうについては飲む保湿の記事に、★論文の資金源まで含めて整理しました。
まとめ
- ★保湿剤の主な仕事は「入れる」ことではなく「逃がさない」ことです
- ★乾いた肌に塗れば水分量は上がります。 ここは争点ではありません
- ★PreventADALL(2397人)で、早期の保湿剤はアトピー性皮膚炎を減らしませんでした(PMID: 32087121)
- ★BEEP(1394人・5年追跡)でも予防効果はなく、★皮膚感染が増えました(発生率比 1.55/PMID: 39021147)
- ★★コクラン(33試験・25,827人)は「湿疹リスクはおそらく変わらない」(RR 1.03)「皮膚感染はおそらく増える」(RR 1.34)(PMID: 33545739)
- ★逆の結果を出した試験もあります(STOP-AD・321人・8週間限定/PMID: 35997592・★企業所属者を含む)
- ★★否定されたのは「予防できる」であって、「潤す」ではありません
- ★アトピー性皮膚炎の治療として保湿を指示されている方は、自己判断で中止しないでください
★保湿は、乾燥への手当てです。 ★それ以上のことを期待しなくてよい、というのが、25,827人分のデータが教えてくれたことでした。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。★本文で引用した試験は、いずれも「健康な乳児における疾患の予防」を検証したものであり、乾燥肌やアトピー性皮膚炎の治療としての保湿を否定するものではありません。★治療として保湿剤を処方されている方は、必ず主治医の指示に従ってください。
参考文献- Skin care interventions in infants for preventing eczema and food allergy. Cochrane Database Syst Rev. 2021. PMID: 33545739(★33試験・25,827人)
- Skin emollient and early complementary feeding to prevent infant atopic dermatitis (PreventADALL). Lancet. 2020. PMID: 32087121
- Emollient application from birth to prevent eczema in high-risk children: the BEEP RCT. Health Technol Assess. 2024. PMID: 39021147
- Early initiation of short-term emollient use for the prevention of atopic dermatitis in high-risk infants (STOP-AD). Allergy. 2022. PMID: 35997592(★著者に企業所属者を含む・逆の結果)
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の製品をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

