「すすぎは、ぬるま湯で」
私は、診察でこうお伝えしています。そして、この記事を書き直すにあたって、根拠を探しました。
「何度ですすぐか」を比べた臨床試験は、見つかりませんでした。
だから、この記事は3つに分けて書きます。①確かめられていること(洗浄剤の側と、酸化した皮脂の側) ②確かめられていないこと(温度そのもの) ③それでも私がぬるま湯をお願いする理由(臨床の判断です)
確かめられていること — 洗浄剤の側
2025年の総説が、界面活性剤と皮膚の関係を整理しています(PMID: 40795538・著者は工学系の大学で、企業所属はありません)。
界面活性剤への曝露は、脂質の破壊、タンパク質の変性、炎症反応といった、皮膚への有害な影響と関連づけられている。 界面活性剤の構造——特に、頭部の電荷、ミセルの大きさ、エトキシ化の程度——が、皮膚との適合性を決定的に左右する。 SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)やLASのような陰イオン性の界面活性剤は強く刺激的である一方、両性および非イオン性のものは、より良好な皮膚耐容性を示す。 年齢や状態によって反応が異なり、新生児やアトピー性皮膚炎の皮膚では、脆弱性が高い。
つまり——「何で洗うか」については、比較的しっかりした話ができます。ここは洗顔の記事に、より詳しく書きました。
確かめられていること — 酸化した皮脂の側
「酸化した皮脂が毛穴を詰まらせる」という説明の、元になった実験があります(PMID: 6223652)。
ウサギの耳の皮膚に、いくつかの物質を塗って、面皰(毛穴の詰まり)ができるかを調べたものです。
スクアレンそのものは、ほとんど面皰を作らなかった。 しかし、スクアレンの過酸化物は、強く面皰を作った。 オレイン酸も、その過酸化物も、かなり大きな面皰を作り、過酸化物のレベルと面皰の大きさには、良好な相関があった。 できた面皰を生検すると、毛包漏斗部の上皮に著明な過形成と過角化、皮脂腺の著明な増殖が見られた。
「皮脂が悪い」のではなく、「酸化した皮脂が面皰を作る」——この区別は、ここから来ています。
ただし、正確に。- 1983年の、ウサギの耳を使った動物実験です
- ヒトの顔で確かめた試験ではありません
- そして——「何時間で酸化するか」を示すものでもありません
この記事の以前の版には「約10時間で過酸化脂質へと変わる」と書いていました。この数字の出典を確かめられなかったので、取り下げます。
確かめられていないこと — 温度そのもの
「すすぎの温度」と「肌のバリア機能」を比べた臨床試験を、PubMedで探しました。見つかりませんでした。
物理としては、油は温度が上がるほど溶けやすくなります。それは確かです。
けれど——「顔を何度のお湯ですすぐと、角層の脂質が何%失われるか」を測った研究には、行き当たりませんでした。
以前の版には「体温(約36度)に近いお湯は、肌に残しておきたい皮脂まで溶かし出してしまう傾向があります」と書いていました。この「約36度」という具体的な数字にも、出典を示せません。取り下げます。
それでも、ぬるま湯をお願いしています
ここからは、臨床の判断として書きます。試験の裏づけがある話ではありません。
私がぬるま湯をお願いする理由は、3つあります。- 熱いお湯で洗った日に、つっぱると言われる方が多い
診察室で、実際によく伺います。平均を測った研究はありませんが、その人にとっての事実として、繰り返し聞く話です。
エビデンスは「みんなに勧めてよいか」を教えてくれます。ご本人の実感は「あなたに何が起きているか」を教えてくれます。この2つは別の問いです。
2. 温度を下げることに、失うものがない①のとおり、洗浄剤の刺激には根拠があります。温度を下げても、洗浄力が足りなくなるわけではありません。
試して合わなければ戻せばよく、費用もかかりません。確かめられていなくても、試す価値のある側だと思っています。
3. 温度を下げると、たいてい「洗い方」も変わる熱いシャワーを顔に直接当てる洗い方は、温度だけでなく水圧の問題も同時に持っています。手ですくってすすぐ形に変えると、その両方が変わります。
実際のところ
- 手で触れて「熱くない」と感じる程度で。「何度」と決められる根拠はありません
- シャワーを顔に直接当てない。 手ですくって、包むようにすすぐ
- すすぎ残しを作らない。 ①のとおり、界面活性剤は残しておきたいものではありません
- 朝も、Tゾーンは洗浄剤で。 ②のとおり、酸化した皮脂は面皰を作る側です(ただし動物実験です)
- 乾燥がひどい方は、朝は控えめに。 ①のとおり、反応は肌の状態で変わります
冬に乾きやすくなることについては冬の乾燥の記事に、保湿については保湿の記事に書きました。
まとめ
- 「すすぎの温度」を比べた臨床試験は、見つかりませんでした
- 界面活性剤の刺激には根拠があります。 SLSなどの陰イオン性は強く刺激的、両性・非イオン性はより良好な耐容性(PMID: 40795538)
- 「酸化した皮脂が面皰を作る」の元は、1983年のウサギの耳の実験です(PMID: 6223652)。スクアレンそのものはほとんど面皰を作らず、その過酸化物が強く作りました
- 「約10時間で酸化する」「約36度で皮脂が溶け出す」は、出典を確かめられなかったので取り下げます
- それでもぬるま湯をお願いするのは、①つっぱると言われる方が多い ②下げても失うものがない ③洗い方も一緒に変わる、という臨床の判断です
- 手で触れて「熱くない」程度。 シャワーの直当ては避けてください
確かめられていないことを、確かめられているように書かない。そのうえで、試して損のないことは、お伝えする。この記事は、その形にしました。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。本文の「ぬるま湯」に関する推奨は、臨床経験に基づくものであり、比較試験による裏づけがあるものではありません。乾燥・赤み・かゆみが続く場合は、皮膚科にご相談ください。
参考文献- Surfactant-containing detergents: Impacts on dermal health. Colloids Surf B Biointerfaces. 2025. PMID: 40795538
- Enhanced comedo formation in rabbit ear skin by squalene and oleic acid peroxides. Br J Dermatol. 1983. PMID: 6223652(ウサギの耳を用いた動物実験)
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の製品をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

