「妊娠が分かったら、薬はやめます」
とてもよく聞くお答えです。そして——この順番には、2つの問題があります。
①「分かってから」では、時期的に遅い場合がある ②急にやめると、そこから悪化して、妊娠中ずっと苦しむことになる
今日は、この2つを軸にお話しします。妊活のご予定がある方に、いちばん早い段階で知っておいていただきたい内容です。
なぜ「分かってから」では遅いのか
胎児の器官が作られる時期は、受精のあと、かなり早い段階から始まります。
一方、妊娠に気づくのは、早くても月経の遅れに気づいてからです。市販の検査薬を使い、産婦人科を受診し、確認できるまでにさらに日数がかかります。
つまり、「妊娠が分かった」時点で、最も感受性の高い時期には、すでに入っています。
これは脅かすための話ではありません。多くの薬は、そこまで神経質になる必要のないものです。 ただ——一部には、そうでないものがある。 そして、その一部を使っている方こそ、先に手を打っておく必要があるということです。
急にやめると、何が起きるか
もうひとつの問題は、こちらです。
肌の治療の多くは、やめれば元に戻ります。 レチノイドをやめれば角化の異常は戻り、ホルモンに働く薬をやめれば皮脂の分泌は戻ります。
そして「元に戻る」のは、妊娠初期と重なります。妊娠初期は、つわりで食事が偏り、睡眠が乱れ、ホルモンが大きく動く時期です。そこに、治療をやめたことによる悪化が重なる。 しかも——妊娠中は、使える手が大きく減ります。
「悪くなったから、別の治療を」という手が、いちばん打ちにくいタイミングで悪くなる。これが、急にやめることの実際の問題です。
だから、3つに仕分けます
妊活を始める前に、いま使っているものを3つに分けます。
A. 止めて、休薬期間が必要なもの薬が体から抜けるまで待つ必要があるものです。「やめた翌月から妊活」とはいきません。 期間の設計が要ります。
代表的なものについては、休薬期間を薬物動態から考える記事に書きました。処方を受けた医師に、必ずご確認ください。
B. 止めるが、休薬期間は要らないもの外用のレチノイドなど、やめればそれで済むものです。ただし——やめたあとに何が起きるかを、先に考えておく必要があります。(②に書いたとおりです)
C. 続けられるもの保湿、日焼け止め、洗浄。土台の部分は、そのまま続けられます。 そしてこの時期は、この土台が主役になります。
仕分けのいちばん大事な点は、AとBを「止める」ことではありません。「Cを厚くしておく」ことです。
組み替えの順番
具体的には、こう進めます。
1. 妊活の開始時期を、先に決めるここが起点です。「そのうち」では逆算できません。
2. いま使っているものを、すべて医師に見せる処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、化粧品も含めてです。「これは化粧品だから」と省かれることが多いのですが、判断するのは受け取った側です。
3. AとBを、いつ止めるかを決めるAには休薬期間があります。Bは、やめたあとの悪化を見越して、先に代わりを置いてから止めます。
4. Cを、止める前に厚くしておく順番が逆になりがちです。止めてから慌てて保湿を強化するのではなく、止める前に土台を作っておく。 これが、妊娠中の数ヶ月を楽にします。
5. 妊娠中に使えるものを、先に確認しておく妊娠してから探すのでは遅いのです。「もし悪くなったら、これを使う」という手を、あらかじめ持っておいてください。
不妊治療を予定されている方は、さらに考慮があります
一般的な妊活と、不妊治療とでは、時間の使い方が違います。
- 「いつ妊娠するか」の見通しが立てにくい。 自然妊娠を待つ場合と違い、周期ごとに状況が変わります
- ホルモン剤を使う治療では、肌の状態そのものが動くことがあります
- 採卵や移植の前後は、体調を乱したくない時期です。ダウンタイムのある施術を入れる余地が小さくなります
- 治療が長期化することもあります。 その間ずっと「何もしない」のは、現実的ではありません
だからこそ、不妊治療を始める前の段階で、肌の側を整えておく意味が大きくなります。 治療が始まってからでは、優先順位が下がってしまうためです。
そして——不妊治療の担当医と、肌の治療の担当医は、たいてい別です。両方に、両方のことを伝えてください。 これは患者さんご自身にしかできないことです。
受診のときに、伝えるとよいこと
診察でこの5つを伝えると、話が早く進みます。
- 妊活を、いつから始める予定か(「そのうち」ではなく、おおよその時期を)
- 不妊治療の予定があるか
- いま使っているもの、すべて(処方薬・市販薬・サプリメント・化粧品)
- いちばん困っている症状はどれか(優先順位をつけるために)
- 妊娠中に悪化したら、どうしたいか
5つ目を聞かれることは、あまりないと思います。 けれど、ここを先に決めておくと、実際に悪くなったときの選択が変わります。
情報をどこで確認するか
「この薬は妊娠中に使えるのか」を、ご自身で調べたくなることもあると思います。
医療者が参照する資料としては、妊娠中と授乳中の皮膚科用薬剤の安全性をまとめた総説があります。米国FDA、スウェーデン、オーストラリアの分類に加え、催奇形性の専門家による分類なども整理されたものです(PMID: 24528911、24528912)。
ただし、これらは医療者向けの資料であり、個別の判断に置き換わるものではありません。
そして——授乳中の資料には、注意が必要な読み方があります。 「使用に適さない」とされている薬は、実はごく少数です。多くの薬は、どちらのリストにも載っていません。 それは「安全」という意味でも「危険」という意味でもなく、評価の対象になっていないという意味です。
リストに載っていないことを、安全だと読み替えないでください。リストの性格を知っていないと読み取りにくいところなので、ここだけは覚えておいていただけたらと思います。
まとめ
- 「妊娠が分かってから」では、時期的に遅い場合があります。 気づく頃には、感受性の高い時期に入っています
- 急にやめると、そこから悪化します。 しかも妊娠初期は、使える手が最も少ない時期です
- 使っているものを3つに仕分ける — A:休薬期間が要る/B:止めるだけでよい/C:続けられる
- 仕分けの要点は「止めること」ではなく「Cを厚くしておくこと」です
- 止めてから慌てるのではなく、止める前に土台を作る
- 不妊治療の予定がある方は、始める前に整えておく意味がより大きくなります。 治療中は優先順位が下がります
- 担当医が別なら、両方に、両方のことを伝えてください
- 「リストに載っていない=安全」ではありません。 評価の対象外という意味です
妊活の準備は、考えることがたくさんあります。
そのリストのどこかに、「肌のことを一度相談する」を入れておいていただけたらと思います。始める前の数ヶ月にそれをしておくだけで、その後の1年がずいぶん違ってきます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。休薬期間や薬剤の可否は、薬の種類・用量・服用期間・体質によって変わります。必ず、処方を受けた医師と産婦人科の担当医の双方にご確認ください。
参考文献- Safety of dermatologic medications in pregnancy and lactation: Part I. Pregnancy. J Am Acad Dermatol. 2014. PMID: 24528911
- Safety of dermatologic medications in pregnancy and lactation: Part II. Lactation. J Am Acad Dermatol. 2014. PMID: 24528912
- 国立成育医療研究センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院は診療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

