「良さそうな美容液を見つけたので、追加しました」
スキンケアは、足すほうに引力が働きます。 減らす理由は見つけにくく、足す理由はいくらでも見つかるからです。
けれど——足す前に決めておくべきことがあります。「そもそも、何を使うか」です。
これについて、きれいな研究がありました。
318成分から、23成分へ
2025年に報告されたデルファイ法による合意形成研究です(PMID: 40233838)。
手順はこうでした。
- 文献レビューで、候補となる成分の長いリストを作成 → 318成分
- 17名の皮膚科医からなる専門家パネルが、重要なものに絞り込む → 83成分
- 43施設の62名の皮膚科医が、2ラウンドのデルファイ調査を実施
- → 合意に達したのは、23成分
そして、合意された成分は悩みごとに整理されています。
| 悩み | 合意された成分 | |---|---| | 小ジワ・シワ | レチノイド、ビタミンC、紫外線散乱剤の日焼け止め | | ニキビ | レチノイド、過酸化ベンゾイル、サリチル酸、グリコール酸 | | シミ | レチノイド、ビタミンC、ナイアシンアミド、グリコール酸 | | 赤み | ナイアシンアミド、紫外線散乱剤の日焼け止め | | 毛穴 | レチノイド | | 脂性肌 | レチノイド、過酸化ベンゾイル、サリチル酸 |
合意された成分の多くは、エビデンスレベル1bまたは2bに支えられているとされています。一方で、一部は専門家の意見に基づくものであるという限界も、著者らが明記しています。
お気づきでしょうか
表を見ると、ひとつだけすべての行に入っている成分があります。
レチノイド。 小ジワ、ニキビ、シミ、毛穴、脂性肌——5つすべてで合意されました。
他の成分は、多くて2〜3の悩みにしか入っていません。
そして、これを裏づける記述が別の総説にもあります。2023年の英国皮膚科学会誌に掲載された、皮膚老化と外用の若返り戦略についてのレビューです。
最も効果の高い外用の若返り治療は、トレチノイン(全トランスレチノイン酸)の外用であり、これは処方薬であり、臨床的な「ゴールドスタンダード」とみなされている。
(PMID: 37903073)
成分を足していくより、レチノイドを1つ、続けられる形で使うほうが効く。 これが、2つの文献から素直に出てくる結論です。
では、重ね付けはどうなのか
「美容液を2本、3本と重ねる」ことについて、正直にお伝えします。
重ね付けの順番や本数を比較した試験を、私は挙げられません。 「化粧水→美容液→乳液」という順番も、機序としては理解できますが、比べて確かめられたものではありません。
そのうえで、確かなことが3つあります。
(1)届く量には上限があります角層は通さないための構造です。分子量が500ダルトンを超えると皮膚吸収は起こりにくいとされ、濃度を上げても比例して届くわけではありません。この話は化粧品の「浸透」はどこまで届くのかに書きました。
本数を増やすことは、届く量を増やすことと同義ではありません。
(2)増やすほど、刺激の可能性が増えます成分が増えれば、合わないものに当たる確率も、組み合わせで刺激が出る確率も上がります。そして——何かが起きたとき、原因を特定できなくなります。
3本使っていて赤くなったとき、どれが原因か分かりません。全部やめて、1つずつ戻すことになります。
(3)続かなければ、効きませんこれがいちばん大事です。手間が増えるほど、続きにくくなる。そして肌が変わるのは、総量と期間で決まります。
よくある「併用してはいけない」について
- ビタミンCとナイアシンアミド — 併用できないという話がありますが、かつての根拠は高温下で長時間反応させた実験にもとづくものです。通常の使い方でそこまでの反応が起きるとは考えにくく、気になるなら朝と夜で分ければ十分です(ナイアシンアミドの記事へ)
- レチノイドと他の成分 — 併用そのものより、刺激が出たときにやめられるかどうかのほうが問題です。レチノイドを始めるときは、他を増やさないのが原則です
- 酸系とレチノイド — 同じ夜に重ねると刺激が強く出ることがあります。分けるほうが無難です
「組み合わせてはいけない」より、「同時に始めない」のほうが、実用的な原則です。
組み立ての順序
上を踏まえた、現実的な順番です。
1. 土台を置く(これだけで大半は足ります)- 日焼け止め — 毎日。4年半の無作為化試験で、皮膚老化の増加が検出されませんでした
- 保湿
- 洗浄 — 洗顔で本当に決まっていることへ
- 悩みに応じて、上の表から1つ。多くの場合、レチノイドです
- 始めたら、2〜3ヶ月は他を増やさない。効いているかどうかが分からなくなります
- そのときも、1つずつ、間隔を空けて
「効く成分を全部入れる」のではなく、「効く成分を1つ、続ける」。 表を見て選ぶべきなのは、成分の数ではなく、続けられるかどうかです。
まとめ
- 318成分を、43施設62名の皮膚科医が絞り込み、合意に達したのは23成分でした
- レチノイドだけが、小ジワ・ニキビ・シミ・毛穴・脂性肌の5つすべてで合意されました
- 英国皮膚科学会誌の総説は、トレチノイン外用を「臨床的なゴールドスタンダード」としています
- 重ね付けの順番や本数を比較した試験を、私は挙げられません
- 確かなのは3つ — 届く量には上限がある/増やすほど原因が分からなくなる/続かなければ効かない
- 「組み合わせてはいけない」より「同時に始めない」が実用的な原則です
- 順番は、土台(遮光・保湿・洗浄)→ 主役を1つ → 必要なら2つ目
スキンケアの棚が増えていくとき、たいてい「何を使うか」が決まっていません。
決まっていれば、足す必要がないからです。選ぶべきは、成分の数ではなく、続けられる1つ。 そこに戻れると、時間もお金も、ずいぶん軽くなります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。肌に合わない場合は使用を中止し、症状が続く場合は皮膚科にご相談ください。妊娠中・授乳中の方は、使用できない成分があります。必ず医師にご相談ください。
参考文献- Skincare ingredients recommended by cosmetic dermatologists: A Delphi consensus study. J Am Acad Dermatol. 2025. PMID: 40233838
- Skin ageing and topical rejuvenation strategies. Br J Dermatol. 2023. PMID: 37903073
- The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol. 2000. PMID: 10839713
未承認医薬品についてのご案内
上記のデルファイ研究で合意された成分のうち、アゼライン酸について記載します。
- 未承認である旨: 日本国内で、医薬品としての薬機法上の承認を受けていません。化粧品等に配合されたものが流通しています。
- 入手経路: 医薬品として用いる場合、医師の責任のもと輸入されます。厚生労働省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」 もあわせてご確認ください。
- 国内の承認医薬品の有無: 同一成分の国内承認医薬品はありません。ニキビに対しては、国内で承認された外用薬による治療が第一選択となります。
- 諸外国での安全性等の情報: 米国および欧州の複数の国で、ざ瘡および酒さの治療薬として承認されています。報告されている主な有害事象は、塗布部位のヒリつき、灼熱感、乾燥、かゆみ、紅斑です。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。 個人輸入された医薬品の使用により健康被害が生じた場合、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の救済制度による給付を受けられません。
- 主なリスク・副作用: 使い始めのヒリつき、灼熱感、乾燥、かゆみ、紅斑。多くは一過性ですが、続く場合は中止してご相談ください。
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の商品・治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

