「ナイアシンアミド、結局どれに効くんですか」
シワにも、シミにも、毛穴にも、バリア機能にも——そう書かれている成分ほど、実は中身を分けて見る必要があります。
同じ「効く」でも、次の2つはまったく重みが違うからです。
- 機器で測った変化 — 水分量、経皮水分蒸散量、皮脂量、色差計の値
- 使った本人の感想 — 「ハリが出た気がする」「シワが薄くなった気がする」
化粧品の試験では、この2つがしばしば同じ「改善」という言葉で並べられます。今日は、そこを分けてお話しします。
先に結論を、証拠の強さ順に
| 何に対して | どこまで言えるか | |---|---| | 保湿・バリア機能 | 機器で測って裏づけがある。いちばん確か | | 皮脂の分泌 | 機器で測って減少が報告されている | | 色ムラ(肝斑) | 効く。ただし第一選択の座には入っていない | | シワ・ハリ | この記事で挙げられるのは本人の主観評価まで |
「万能」と紹介されがちですが、足場の固さは項目ごとにかなり違います。
保湿とバリア機能 ——ここがいちばん確かです
2025年に報告された二重盲検ランダム化比較試験は、30〜60歳の女性67名を対象に、ナイアシンアミド配合の製剤とプラセボを比較しました(超音波の併用群を含む4群)。
結果として、ナイアシンアミド配合の製剤は——
- 角層の水分量を改善した
- 経皮水分蒸散量(TEWL)を減らした
いずれも機器で測定された値です(PMID: 39171587)。
経皮水分蒸散量というのは、肌から水分がどれだけ逃げているかの指標です。これが下がるということは、外から水を足したのではなく、水を逃がさない構造そのものが改善していることを意味します。「保湿」という言葉が指す2つの意味のうち、後者にあたります。
ナイアシンアミドは、角層のセラミドをはじめとする脂質の産生に関わるとされており、この結果は機序とも矛盾しません。この成分をひとつだけ選ぶなら、ここが理由になります。
皮脂 ——こちらも測られています
同じ2025年の試験では、皮脂量の減少も報告されています(PMID: 39171587)。
また、2024年に報告された軽症から中等症のニキビに対する外用治療の系統的レビューでは、ナイアシンアミドについて41名を対象としたランダム化比較試験で皮脂産生が減少したことが取り上げられています。ただしこのレビューは、10本前後の論文を対象とした記述的なもので、統合解析(メタ解析)ではありません(PMID: 38725769)。
テカリや毛穴の目立ちが皮脂量と関係する以上、この点は実務的に意味があります。ただし、「ニキビが治る」とは別の話である点にはご注意ください。同じレビューでは、炎症をともなうニキビに対しては、外用レチノイドのほうが明確な効果を示しています。
色ムラ(肝斑)——効きます。ただし、第一選択ではありません
ここが、いちばん誤解されやすいところだと思います。
2011年に報告された二重盲検ランダム化比較試験は、肝斑の患者27名を対象に、顔の片側に4%ナイアシンアミド、反対側に4%ハイドロキノン(美白の標準的な外用薬)を8週間使用して比較しました。日焼け止めは全期間で併用されています。
結果は、次のとおりでした。
- 色差計による測定では、両側に統計的な差はなかった
- 「良好〜優秀な改善」と評価された割合は、ナイアシンアミド44%に対しハイドロキノン55%
- 副作用が出た割合は、ナイアシンアミド18%に対しハイドロキノン29%
- 組織学的には、肥満細胞の浸潤の減少と、日光弾性線維症の改善が見られた(PMID: 21822427)
27名という規模ですから、これ一本で結論は出ません。 それでも「標準薬に大きく劣るわけではなく、副作用は少ない」という方向は読み取れます。
一方で、視野を広げるとこうなります。肝斑に対する外用薬の35件のランダム化比較試験を集めた系統的レビューでは、強い臨床推奨を得たのはシステアミン、トリプル併用療法、トラネキサム酸の3つでした。ナイアシンアミドは検討対象に含まれていますが、この3つには入っていません(PMID: 31741361)。
つまり——
ナイアシンアミドは、色ムラに対して「効かない」のではなく、「刺激が少ないぶん、効き目の面では第一線を張る薬ではない」。
肌が敏感でハイドロキノンが続かない方、日常のスキンケアの中で無理なく続けたい方には、良い立ち位置にある。一方で、しっかり治したい肝斑がある場合には、この成分だけでは届きにくいかもしれません。他にも選択肢があることを、知っておいていただけたらと思います。
なお、トラネキサム酸の肝斑への使用は日本では適応外にあたり、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。血栓の既往がある方では特に慎重な判断が必要になります。
シワ・ハリ ——ここは正直に線を引きます
「シワが薄くなった」「ハリが出た」という報告は、確かにあります。
先ほどの2025年の試験でも、外見・ハリ・弾力・シワについて改善が報告されました。ただし、それは使用者による評価(consumer evaluations)です。 同じ試験で機器計測により裏づけられたのは、水分量・経皮水分蒸散量・皮脂量のほうでした(PMID: 39171587)。
主観評価が無意味だという意味ではありません。 本人が満足しているかどうかは、スキンケアでは重要な結果です。けれど「機器で測って有意差が出た」のと「本人が良くなったと感じた」のは、別の強さの主張です。
この記事で挙げられるのは、後者までです。 シワを主目的にするなら、レチノイドのほうが証拠の厚みがあります。
なお、ナイアシンアミド配合の製剤で機器計測の改善を示した研究の中には、製造企業の研究者によるものも含まれます。 内容が誤りという意味ではありませんが、読むときには重みを差し引いて考える必要があります。この記事では、そうした研究を根拠に使っていません。
使い方について
ここからは、機序として妥当で、外れても害のない範囲の話です。
- 朝でも夜でも構いません。 光で分解される成分ではないため、時間帯の制約は緩やかです
- ビタミンCと同時に使えない、という話について — かつて言われていたのは、高温下で長時間反応させた場合の実験にもとづくものです。通常のスキンケアの使い方でそこまでの反応が起きるとは考えにくく、気になるなら朝と夜で分ければ十分です
- レチノールとの併用は、むしろ相性が良い組み合わせです。レチノールで荒れやすい方が、バリア側を支える目的で足すのは筋が通ります
- 効果を見る期間 — 保湿やバリアの変化は比較的早く、色ムラは月単位で見る必要があります。数日で判断しないでください
- 合わない方もいます。 ピリつきや赤みが出たら、量を減らすか中止して、続く場合は皮膚科にご相談ください
まとめ
- 保湿・バリア機能が、いちばん確かです。67名の二重盲検試験で、角層水分量の改善と経皮水分蒸散量の低下が機器で測定されました
- 皮脂も測定されており、減少が報告されています。ただし「ニキビが治る」とは別の話です
- 色ムラには効きますが、4%ハイドロキノンとの比較では色差計で差がなく、主観評価ではやや下、副作用は少ない(27名)。35件のRCTをまとめたレビューで強く推奨された3剤には入っていません
- シワ・ハリについて、この記事で挙げられるのは主観評価までです
- ビタミンCとの併用を過度に恐れる必要はありません。レチノールとはむしろ相性が良い組み合わせです
「万能」ではなく、土台を整える成分。そう位置づけると、この成分の得意なところが活きてきます。攻めの成分(レチノイドや美白剤)を続けるための足場をつくる——それが、この成分のいちばん得意な仕事だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。肌の状態によって適した成分や濃度は変わります。症状が続く場合は、皮膚科にご相談ください。
参考文献- Topical Formulation with Niacinamide Combined with 5 MHz Ultrasound for Improving Skin Ageing: A Double-blind, Randomised, Placebo-controlled Clinical Study. Curr Med Chem. 2025. PMID: 39171587
- A Double-Blind, Randomized Clinical Trial of Niacinamide 4% versus Hydroquinone 4% in the Treatment of Melasma. Dermatol Res Pract. 2011. PMID: 21822427
- Topical Treatments for Melasma: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. J Drugs Dermatol. 2019. PMID: 31741361
- Efficacy of Topical Treatments in the Management of Mild-to-Moderate Acne Vulgaris: A Systematic Review. Cureus. 2024. PMID: 38725769
適応外使用についてのご案内
本記事では、トラネキサム酸の肝斑への使用について、承認された効能・効果の範囲外での使用(適応外使用)に触れています。
- 承認された効能・効果の範囲外である旨: 医療機関で処方されるトラネキサム酸について、国内で承認されている効能・効果に「肝斑」は含まれておらず、これを目的とした使用は適応外使用にあたります。
- 主なリスク・副作用: 血栓症の懸念(血栓の既往がある方では特に慎重な判断が必要です)、食欲不振、吐き気、発疹。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。 適応外使用は適正な使用と認められないため、健康被害が生じた場合に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の救済制度による給付を受けられません。
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。
※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

