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Skincare2026-08-06

トラネキサム酸はなぜ、処方薬だと「適応外」で市販薬だと「承認済み」なのか|肝斑治療のねじれた構造

Dr. みやか

Dr. みやか

10 min read

「皮膚科で肝斑の薬を出してもらったら、保険がきかないと言われました」 「同じ成分の薬が、ドラッグストアで普通に売られているのですが」

この2つは、どちらも正しいのです。

日本のトラネキサム酸には、他の薬ではまず見ないねじれた構造があります。

| | 処方薬(トランサミン等) | 市販薬(トランシーノEX等) | |---|---|---| | 肝斑への適応 | なし(適応外) | あり(正式に承認) | | 費用 | 自費 | 自費 | | 用量 | 医師が調整できる | 固定 | | 服用期間 | 制限なし | 最長2ヶ月・その後2ヶ月休薬 |

同じ成分です。医師の管理下で出されるほうが「適応外」で、自分で買えるほうが「承認済み」。

今日は、この構造がなぜできたのかと、そこから生まれる実務上の差をお話しします。


まず、処方薬の添付文書を実際に見てみます

医療用医薬品としてのトラネキサム酸錠の「効能又は効果」は、次のとおりです。

  • 全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向(白血病、再生不良性貧血、紫斑病等、および手術中・術後の異常出血)
  • 局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血(肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、前立腺手術中・術後の異常出血)
  • 下記疾患における紅斑・腫脹・そう痒等の症状(湿疹およびその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹)
  • 下記疾患における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状(扁桃炎、咽喉頭炎)
  • 口内炎における口内痛および口内粘膜アフタ

「肝斑」も「しみ」も「色素沈着」も、一語も出てきません。

用法・用量は「トラネキサム酸として、通常成人1日750〜2,000mgを3〜4回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する」とされています。

つまり——皮膚科で肝斑を目的にこの薬が処方されるとき、それは添付文書の効能の外側での使用(適応外使用)です。 保険がきかない、と言われる理由はここにあります。

ところが、市販薬では正式に承認されています

一方、ドラッグストアで買える第1類医薬品のトラネキサム酸配合薬は、効能・効果として 「しみ(肝斑に限る)」 が正式に承認されています。

用法は、成人(15歳以上)が1回2錠を1日2回、食後に服用。そして2ヶ月を超えて続けて服用しないこと、再開までに最低2ヶ月あけることが定められています。

なぜこんなことになったのか。 経緯はこうです。

もともとトラネキサム酸は、1960年代に日本で開発された止血・抗炎症の薬でした。蕁麻疹などの治療でこの薬を飲んでいた患者さんの肝斑が、偶然にも薄くなる——この臨床での気づきが出発点になりました。

通常、市販薬は「医療用ですでに承認されている効能」を引き継ぐ形で作られます(スイッチOTC)。ところがトラネキサム酸には、引き継ぐべき「肝斑」の適応が医療用の側に存在しなかった⁠。そこで、肝斑に対する有効性と安全性の臨床データをゼロから作り、市販薬として新しい効能の承認を取りにいった——という、通常とは逆の経路をたどりました。

結果として、「処方薬では適応外、市販薬では承認済み」という逆転が生まれたのです。

なぜ医療用の側で適応を追加しないのか

素朴な疑問だと思います。理由は、医学ではなく制度と経済の側にあります。

肝斑の治療は、公的医療保険の対象になりません。 保険は「疾病または負傷」の治療を対象とするもので、肝斑をはじめとするしみ・色素沈着の治療は美容目的とみなされるためです。

すると、こうなります。仮に製薬会社が大規模な臨床試験を行って医療用の適応に「肝斑」を追加したとしても、保険は適用されない⁠。しかもトラネキサム酸は特許が切れて久しく、安価な後発品が多数流通しています。巨額の試験費用を投じても、回収する道筋がありません。

そして臨床の側も、適応外使用という枠組みで自費診療として処方できているため、大きな不都合が生じていない。誰も申請しないまま、この構造が固定されました。

これは「効果が疑わしいから承認されていない」という話ではありません。制度の側の事情でそうなっている⁠、というだけです。

では、どのくらい効くのか

制度の話が長くなりましたが、肝心の効果を見ておきます。

肝斑の治療14種類を横並びで比較したネットワークメタ解析があります。59件のランダム化比較試験を統合したものです(PMID: 34660626)。

有効性の順位(プラセボとの比較、高い順)は、上位から次のとおりでした。

①Qスイッチ1064nmレーザー ②強力パルス光 ③アブレイティブフラクショナルレーザー ④トリプル併用クリーム ⑤外用ビタミンC ⑥経口トラネキサム酸

以下、ピーリング、外用剤のいくつか、マイクロニードル、外用トラネキサム酸⁠、トレチノイン、ピコ秒レーザー、ハイドロキノンと続きます。

経口トラネキサム酸は、14の治療のうち6番目。効果の順位としては中位です。 「最強の肝斑治療」ではありません。

ここで目を引くのは、ピコ秒レーザーが下位に置かれていることです。シミには強い機械ですが、肝斑では話が変わる——ピコレーザーの記事でお伝えしたとおりです。

けれど、同じ研究は副作用の割合も並べています(参加者80名超の治療について、少ない順)。

トレチノイン10.1% > 経口トラネキサム酸17.6% > ハイドロキノン18.2% > アブレイティブフラクショナルレーザー20.0% > Qスイッチ1064nm 21.5% > トリプル併用クリーム25.7% > 外用トラネキサム酸36.75% > ピーリング38.0% > マイクロニードル52.3%

副作用の少なさでは、2番目です。

著者らの結論は、外用ではトリプル併用クリーム、機器ではQスイッチ1064nmとアブレイティブフラクショナルレーザーが好ましく、全身投与としては経口トラネキサム酸が有望というものでした。そして31の研究のうち87%で、併用療法が単独療法より優れていたとも述べています(PMID: 34660626)。

「効果は中位、副作用は少ないほう、そして単独ではなく併用で使う薬」——これが、データから見たこの薬の輪郭です。

飲むのと塗るのは、どう違うのか

投与経路を比べたネットワークメタ解析もあります(PMID: 38059683)。

  • 内服と通常の外用薬の併用が、皮内注射・外用のみ・マイクロニードル併用のいずれよりも、4週・8週・12週・最終追跡のすべての時点で優れていた
  • 8週の時点では、内服が皮内注射より優れていた
  • プラセボと比べたとき、内服は4週から有意な差が出たのに対し、外用・皮内注射・マイクロニードルは8週からだった
  • ただし長期で見ると、トラネキサム酸単独の効果は投与経路によらない

つまり、内服は立ち上がりが早い⁠。そして単独より、外用と組み合わせたほうが良い⁠。ここは実務的にそのまま使える結論です。

なお、外用薬に絞った35件のRCTの系統的レビューでは、強い臨床推奨を得たのはシステアミン、トリプル併用療法、トラネキサム酸の3つでした。ただし同じレビューは、トラネキサム酸について血栓症の理論的リスクを明記しています(PMID: 31741361)。

安全性 ——ここは、はっきりお伝えします

トラネキサム酸は「線を溶かす仕組み(線溶系)」を止める薬です。止血のために作られた薬なので、それは当然の性質です。

そして、止血の方向に働くということは、血栓ができたときに溶けにくくなる方向でもあります。

添付文書には、注意すべき背景として次が挙げられています。

  • 血栓のある患者(脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等)および血栓症があらわれるおそれのある患者 — 血栓を安定化するおそれ
  • 消費性凝固障害のある患者
  • 術後の臥床状態にある患者、圧迫止血の処置を受けている患者 — 静脈血栓を生じやすい状態であり、離床や圧迫解除に伴って肺塞栓症を発症した例が報告されている
  • 腎機能障害のある患者 — 血中濃度が上昇することがある
  • 妊婦 — 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与
  • 授乳婦 — 有益性を考慮して授乳の継続または中止を検討
  • 高齢者 — 減量するなど注意

また、トロンビンとは併用禁忌です。

ここから導かれる、実務的な注意を書いておきます。
  • ピルを飲んでいる方 — 低用量ピルも静脈血栓塞栓症のリスクを上げます。併用については必ず処方医にお伝えください
  • 長時間のフライトや、手術・入院の予定がある方 — 血栓ができやすい状況です。事前に相談してください
  • ふくらはぎの痛みや腫れ、急な息切れ、胸の痛み — 服用を中止して速やかに受診してください
  • 市販薬の「2ヶ月で休薬」というルールは、この血栓のリスクを、医師の管理がない前提で抑えるための安全弁です。面倒だから守らなくていい、というものではありません

市販薬と処方薬、どう使い分けるか

ここまでを踏まえると、整理はこうなります。

市販薬が向いている場合
  • 軽度から中等度の肝斑で、まず試してみたい
  • 定期的に通院する時間が取りにくい
  • 用量が固定されていることが、むしろ安心材料になる
医療機関での処方が向いている場合
  • 市販薬を2ヶ月使って、効果が不十分だった
  • 用量の調整が必要(処方では1日750〜2,000mgの範囲で医師が決められます)
  • 休薬をはさまずに続けたい(肝斑は慢性で再発しやすく、休薬中に戻ってくることがあります)
  • 血栓のリスク因子がある(ピル、喫煙、既往、手術予定など)——この場合はむしろ、自己判断で市販薬を飲むより、医師の管理下に入るべきです
  • 外用や機器との組み合わせを設計したい(併用のほうが成績が良いというデータがあります)

最後の点を強調させてください。「市販薬なら安全、処方薬だと強い」ではありません。 血栓のリスクを持つ方にとっては、問診も検査もなく買えてしまう市販薬のほうが、むしろ注意が必要です。

まとめ

  • 処方薬の添付文書に、「肝斑」「しみ」「色素沈着」は一語も出てきません。 肝斑目的の処方は適応外使用です
  • 市販の第1類医薬品では「しみ(肝斑に限る)」が正式に承認されています。同じ成分で、逆転しています
  • この構造は、肝斑が保険の対象外であることと、特許切れで適応追加の採算が合わないことから生まれました。効果への疑義ではありません
  • 効果は、14治療を比べたネットワークメタ解析(59件のRCT)で中位⁠。ただし副作用の少なさでは2番目(17.6%)
  • 内服+外用の併用が最も良い成績⁠。内服は4週から効き始めるのに対し、外用・注射は8週から
  • 血栓の既往、ピル、手術予定、長時間のフライト——これらがある方は、市販薬を自己判断で飲む前に医師にご相談ください
  • 市販薬の2ヶ月ルールは安全弁です。守れないなら、医師の管理下で使うほうが安全です

「適応外」という言葉は、効かないという意味ではありません。制度がそこに追いついていない、というだけのこともあります。トラネキサム酸は、その典型例です。

ただし、適応外使用で健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度の対象にはなりません。 そこは知ったうえで選んでいただきたいと思います。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。血栓の既往、ピルの服用、手術のご予定がある方は、必ず医師にお伝えください。服用の可否と用量は、診察を受ける医師にご相談ください。

参考文献
  • Comparison of the Efficacy of Melasma Treatments: A Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Front Med (Lausanne). 2021. PMID: 34660626
  • Comparative efficacy and safety of tranexamic acid for melasma by different administration methods: A systematic review and network meta-analysis. J Cosmet Dermatol. 2023. PMID: 38059683
  • Topical Treatments for Melasma: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. J Drugs Dermatol. 2019. PMID: 31741361
  • トラネキサム酸錠 添付文書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
  • トランシーノEX 添付文書(第1類医薬品)

適応外使用についてのご案内

本記事では、医療機関で処方されるトラネキサム酸の、肝斑を目的とした使用について、承認された効能・効果の範囲外での使用(適応外使用)に触れています。

  • 承認された効能・効果の範囲外である旨: 医療用医薬品としてのトラネキサム酸の効能・効果は、出血傾向、異常出血、湿疹およびその類症・蕁麻疹・薬疹/中毒疹の紅斑・腫脹・そう痒等、扁桃炎・咽喉頭炎の咽頭痛等、口内炎における口内痛および口内粘膜アフタに限られており、「肝斑」は含まれていません⁠。肝斑を目的とした処方は適応外使用にあたります。なお、一般用医薬品(第1類医薬品)としては「しみ(肝斑に限る)」が承認されています。
  • 主なリスク・副作用: 血栓症の懸念(血栓の既往のある方、術後の臥床状態にある方、圧迫止血の処置を受けている方では特に慎重な判断が必要です)、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、発疹。トロンビンとは併用禁忌です。妊婦・授乳婦・高齢者・腎機能障害のある方では、投与の可否や用量の判断が変わります。
  • 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。 適応外使用は適正な使用と認められないため、健康被害が生じた場合に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の救済制度による給付を受けられません。

※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

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※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

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