「糖質を減らしたら、肌が荒れた気がします」
この話をするとき、まず分けておきたいことがあります。
「糖質を減らす」には、大きく2つあります。低GI食 — 血糖の上がり方がゆるやかな食べ方に寄せる ケトジェニック食 — 糖質を厳しく制限し、体をケトン体を使う状態にする
皮膚科の文献の中で、この2つは、まったく違う扱いを受けています。 順にお伝えします。
低GI食 — ニキビについては、有望とされています
2024年の総説が、この2つを並べて評価しています(PMID: 38593092)。結論は、はっきりしています。
低GI食はニキビの治療に有望である。一方、他の炎症性皮膚疾患に対するケトジェニック食のエビデンスは限られている。 これらの食事を単独治療あるいは補助治療として用いる有効性を探るには、無作為化比較試験が必要である。
低GI食については、12週間の無作為化比較試験が古くからあります(PMID: 17616769)。低GI負荷食で、ニキビの症状が改善したという報告です。
ここで大事なのは、「低GI食」が「糖質を厳しく減らすこと」を意味していない点です。血糖の上がり方をゆるやかにする、という話です。
具体的にどうするかは、食べ物の記事に、私自身が気をつけていることとして書きました。単品で済ませない、甘い飲み物を日常の水分にしない、空腹の時間を長くしすぎない——この程度のことです。
ケトジェニック食 — 皮膚に出る症状が、報告されています
ケトジェニック食のほうは、話が変わります。
2023年に出た「ケトジェニック食と皮膚」という総説(PMID: 37945356)は、有益な可能性とあわせて、皮膚に起きる有害反応を挙げています。
色素性痒疹(prurigo pigmentosa) 栄養欠乏
色素性痒疹は、胸や背中、首のまわりに、かゆみを伴う赤い発疹が出て、治まったあとに網目状の色素沈着を残す皮膚疾患です。厳格な糖質制限やケトーシスとの関連が報告されており、海外では「ケト疹」と呼ばれることもあります。
これは、「肌がなんとなく荒れる」という話ではありません。診断名のつく、目に見える形で出るものです。
そして——色素沈着を残します。 当院が向き合っている領域と、直接つながる話です。
ケトジェニック食の「効く」側は、まだ推測の段階です
では、ケトジェニック食がニキビに効くかどうか。
2023年の総説(PMID: 36779329)が、この問いを扱っています。そして、著者ら自身がこう書いています。
超低カロリーケトジェニック食(VLCKD)のニキビ管理への実施に関する研究は乏しい(paucity)ため、本総説は、ニキビ治療におけるVLCKDの推測的な(speculative)使用を支持する根拠を、利用可能な文献から提供することを目的とする。
論文の目的の欄に「推測的な使用」と書かれています。これは、まだそこまでしか言えない、という著者らの誠実な表明です。
2025年に、イタリアの5学会(栄養・皮膚科・栄養補助食品・内分泌)が合同で出した合意声明もあります(PMID: 40358870)。地中海食や超低エネルギーケトジェニック療法に触れたうえで、こう書かれています。
現在の文献は、小規模な研究に限られており、標準化された食事ガイドラインを欠いている。
日本のガイドラインは、何と言っているか
日本皮膚科学会『尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023』には、食事についてのCQが2つあります(CQ46・CQ47、いずれも推奨度C2)。
特定の食べ物を一律に制限することは推奨しない。 個々の患者の食事指導においては、特定の食物摂取と痤瘡の経過との関連性を十分に検討して対応することが望まれる。
ここも、後半が大事です。 ガイドラインが否定しているのは「全員に一律に禁止する運用」であって、その人にとって関係のある要因を一緒に探すことではありません。
このあたりの読み方は、食べ物の記事に詳しく書きました。
実際的なところ
以上を、日々の選択に落とすと、こうなります。
低GI寄りにする分には、方向として支持がありますニキビについては、無作為化比較試験と総説の両方が、この方向を指しています。 そして、厳しくする必要はありません。 食べ方を整える範囲です。
厳格なケトジェニック食を、肌のために始める理由は、いまのところ見当たりません
効く側は「推測的」と書かれ、出る側には色素性痒疹という具体的な報告があります。天秤の両側が、そういう状態です。
すでにケトジェニック食をしている方へ体重や代謝の目的で続けている方は、たくさんいらっしゃると思います。その場合、肌の側で見ておきたいのは、この2つです。
- 胸・背中・首まわりに、かゆみを伴う赤い発疹が出ていないか(色素性痒疹の出やすい場所です)
- ビタミン・ミネラルが足りているか(総説が挙げているもう一方です)
出たときに早く気づけると、色素沈着として残る量が変わります。皮膚科で診てもらう価値のある症状です。
まとめ
- 「低GI食」と「ケトジェニック食」は、皮膚科の文献の中で扱いが違います
- 低GI食はニキビの治療に有望とされています(PMID: 38593092・17616769)
- ケトジェニック食の、他の炎症性皮膚疾患へのエビデンスは限られると同じ総説が書いています
- ケトジェニック食には、色素性痒疹と栄養欠乏という有害反応の報告があります(PMID: 37945356)
- 効く側は「推測的(speculative)」と、著者ら自身が書いています(PMID: 36779329)
- イタリアの5学会の合意声明も「小規模研究に限られる」と明記しています(PMID: 40358870)
- 日本のガイドラインは一律制限を推奨せず、個々に検討することを求めています(痤瘡GL2023 CQ46・CQ47)
- すでに続けている方は、胸・背中・首まわりの発疹と、栄養の充足を見ておいてください
「糖質制限は肌に悪い」でも「良い」でもなく、どちらの制限なのかで、話が変わります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。糖尿病その他の疾患で食事療法を受けている方、妊娠中・授乳中の方は、必ず主治医の指示に従ってください。かゆみを伴う発疹が出た場合は、自己判断せず皮膚科を受診してください。
参考文献- 日本皮膚科学会 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023(CQ46・CQ47)
- Impact of Ketogenic and Low-Glycemic Diets on Inflammatory Skin Conditions. Cutis. 2024. PMID: 38593092
- Ketogenic Diet and the Skin. Skinmed. 2023. PMID: 37945356
- The effect of the ketogenic diet on Acne: Could it be a therapeutic tool? Crit Rev Food Sci Nutr. 2023. PMID: 36779329(著者ら自身が「推測的」と記載)
- Medical Nutrition Therapy in Dermatological Diseases: A Joint Consensus Statement. Curr Obes Rep. 2025. PMID: 40358870(「小規模研究に限られる」と明記)
- A low-glycemic-load diet improves symptoms in acne vulgaris patients: a randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2007. PMID: 17616769
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の食事法をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

