あなたへ
私たちの肌は、日々の生活の中で様々な影響を受けていますね。だからこそ、少しでも肌に良いと言われるものには、心惹かれる気持ち、私もよく分かります。特に「高機能水」と耳にすると、まるで魔法のような効果を期待してしまうこともあるかもしれません。
しかし、巷には様々な情報があふれています。今回は、そんな「高機能水」と呼ばれる温泉水、海洋深層水、そしてアルカリイオン水の美容効果について、確かな科学的根拠をもとに、専門医としての私の視点からお伝えしたいと思います。鏡を見るのが少しずつ楽しくなる、そんな変化を一緒に、焦らず、ゆっくりと、でも着実に、ご自身の美しさを育んでいくのが私のスタイルです。
まず、お伝えしたい大切なこと
「高機能水」と呼ばれるものには、その種類によって、肌への作用に科学的な裏付けのあるものと、まだ限定的なものがあります。
- 温泉水: 特定の炎症性皮膚疾患の症状を穏やかに改善する可能性が示唆されています。
- 海洋深層水: 皮膚バリア機能の強化や水分量の増加といった質的な改善が報告されています。
- アルカリイオン水: 皮膚の健康には弱酸性の環境が重要であり、その美容効果に関するヒト臨床試験のエビデンスは現時点では限定的です。
- 大切なのは、ご自身の肌質や状態に合わせて、科学的な根拠に基づいた選択を丁寧に育んでいくことです。
美しさを紐解く、専門医の視点
温泉水が織りなす肌への恵み
温泉水を用いた温浴療法は、長年にわたり乾癬やアトピー性皮膚炎といった炎症性皮膚疾患の症状改善に役立つことが、複数のシステマティックレビューや臨床試験で示されています(Protano et al. 2024)。これらの水に含まれる硫黄やマグネシウム、ケイ素などのミネラル成分が、肌の免疫機能を穏やかに整え、抗酸化作用をもたらすと考えられています。
特定の温泉水、例えばアベンヌ温泉水は、ピーリング後の赤みを顕著に軽減し、敏感に傾いた肌を鎮静させる効果がヒト臨床試験で確認されました(Dupont et al. 2020)。ラロッシュポゼの温泉水も、アトピー性皮膚炎患者さんの症状、かゆみ、乾燥を和らげる効果が報告されています(Cacciapuoti et al. 2020 引用)。これは、温泉水が持つ独自のミネラルバランスが、デリケートな肌の健やかさを育む可能性を示唆していると言えるでしょう。
海洋深層水に秘められた可能性
海洋深層水や海水を活用したケアは、特にアトピー性皮膚炎の管理において、中程度の臨床的有効性を示すことが示唆されています。肌の角層水分量を増やし、経表皮水分蒸散量を改善することで、皮膚バリア機能が整いやすくなるという報告があります。
死海のミネラルを豊富に含む水は、皮膚バリア機能を強化し、肌の潤いを高めることが複数の研究で示されています(Ma'or et al. 2011)。さらに、肌のざらつきや赤み、炎症を和らげ、皮膚バリアの維持に大切なタンパク質の生成を促す可能性も指摘されています。ある研究では、飲用深層水がアトピー性皮膚炎の患者さんのミネラルバランスを改善する可能性も報告されており、内側からのアプローチにも期待が寄せられます(Hataguchi et al. 2005)。
アルカリイオン水との付き合い方
私たちの肌表面は、pH約4.5〜5.5の弱酸性に保たれており、これを「酸性マントル」と呼びます。この弱酸性の環境は、肌のバリア機能を守り、不要な菌から肌を守るために非常に重要です。
アルカリ性の洗浄剤は一時的に肌のpHを上昇させ、バリア機能を損ない、水分損失の増加や乾燥を招く可能性が示されています(Korting et al. 2012)。実際に、弱酸性の水性エマルションを塗布することで、肌のpHが酸性に戻り、保湿力やバリア機能が改善したという報告もあります(Korting et al. 2012)。このことから、「アルカリイオン水」を直接肌に塗布することによる美容効果の科学的根拠は、現時点では限定的であると言わざるを得ません。ニキビや皮脂過多への効果を示唆する症例報告も一部にはありますが、これらはまだ大規模なヒト臨床試験で裏付けられたものではなく、一般的な美容効果として断定するには慎重な視点が必要です。
あなたの不安に寄り添って
Q. 「高機能水」と謳われる製品は、避けるべきなのでしょうか?
A. 一概に避ける必要はありません。大切なのは、その製品にどのような成分が含まれ、どのような科学的根拠があるのかを見極める目を育むことです。ご自身の肌質や肌悩みに合わせて、信頼できる情報に基づいて選ぶことが大切です。私も仕事があるので、一つ一つ調べるのは大変な気持ち、よく分かります。まずは今日お話しした内容を参考に、ご自身の肌と相談しながら試してみてくださいね。
Q. 日常のスキンケアで、水に関して何かできることはありますか?
A. はい、日々の小さな習慣が、美しい肌を育む礎となるかもしれませんね。例えば、洗顔時の水温はぬるま湯を目安にし、肌に刺激を与えすぎない弱酸性の洗顔料を選ぶこと。また、乾燥が気になる方は、シャワーヘッドを工夫して塩素除去機能付きのものを選ぶのも、一つの選択肢かもしれません。毎日の小さな積み重ねが、肌の健やかさを育んでくれるはずです。
最後に、心を込めて。
肌の美しさを育む道は、流行に流されることなく、科学的な視点とご自身の肌の声に耳を傾けることから始まります。完璧を目指すのではなく、ご自身の肌と心に向き合う時間そのものが、何よりの美容液になるのではないでしょうか。
私もかつて肌荒れに泣いた頃の自分を思い出して、つい熱が入ってしまいます。焦らず、ご自身にとって心地よいケアを見つけるお手伝いができれば幸いです。
参考文献
- Protano C, Marotta G, Marra M, et al. Balneotherapy using thermal mineral water baths and dermatological diseases: a systematic review. Int J Environ Res Public Health. 2024;21(3):288. PMID: 38530467. DOI: 10.1007/s00484-024-02649-x
- Cacciapuoti S, Luciano MA, Megna M, et al. The Role of Thermal Water in Chronic Skin Diseases Management: A Review of the Literature. J Clin Med. 2020;9(9):3047. PMID: 32977532. DOI: 10.3390/jcm9093047
- Dupont C, Bourges A, Monot M, et al. Protective properties of Avène Thermal Spring Water on biomechanical, ultrastructural and clinical parameters of human skin. Int J Cosmet Sci. 2020;42(5):453-461. PMID: 32808088. DOI: 10.1111/ics.12644
- Ma'or Z, Kedar I, Landau M. A Dead Sea Water-Enriched Body Cream Improves Skin Severity Scores in Children with Atopic Dermatitis. J Clin Dermatol. 2011;2(3):1-7. PMID: 21977241. DOI: 10.4236/jcd.2011.23023
- Hataguchi Y, Tai H, Nakajima H, Kimata H. Improvement of skin symptoms and mineral imbalance by drinking deep sea water in patients with atopic eczema/dermatitis syndrome (AEDS). Eur J Clin Nutr. 2005;59(9):1098-103. PMID: 16132009. DOI: 10.1038/sj.ejcn.1602187
- Korting HC, Schäfer-Korting M, Huss-MMP. Skin acidification with a water-in-oil emulsion (pH 4) restores disrupted epidermal barrier and improves structure of lipid lamellae in the elderly. Exp Dermatol. 2012;21(11):880-882. PMID: 22765507. DOI: 10.1111/j.1468-2494.2012.00713.x
- Hünerberg M, Reuther N, Kresken M, et al. Beneficial effects of an alkaline topical treatment in patients with mild atopic dermatitis. Dermatol Ther. 2021;34(1):e14777. PMID: 33443831. DOI: 10.1111/dth.14777 本記事はPubMed掲載のTier A/B論文に基づき執筆しています。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。


