「妊娠が分かってから、肌が荒れ始めました。何も使えないですよね」
そんなことはありません。ただし——「何が使えるか」より先に、知っておいていただきたい読み方があります。
「リストに載っていない」は、「安全」という意味ではありません。
この話まで含めて、順にお伝えします。
なぜ、妊娠中に悪くなるのか
妊娠中はホルモンの状態が大きく変わり、それがニキビの発症に関わります。2022年の総説は、「妊娠中のホルモンと生理的な変化が、妊娠の各時期におけるニキビの病態に寄与している」と書いています(PMID: 36447117)。
そこに、つわりによる食事の偏りや、睡眠の変化が重なります。
ケアの仕方の問題ではありません。時期の問題です。段階的に考える、という枠組み
同じ総説が示している進め方は、はっきりしています。
軽症〜中等症妊娠中および授乳中のニキビ管理は、リスクを最小化するため、重症度に基づく段階的なアプローチに従うべきである。
中等症〜重症過酸化ベンゾイル、アゼライン酸、角質溶解薬といった外用療法が使用できる。
難治例ペニシリン、アモキシシリン、セファレキシン、エリスロマイシンなどの全身療法が必要になることがある。 その際は、薬剤の妊娠時期ごとの催奇形性、および母と児の関連する病歴に、特別な配慮を払う。
経口または病変内のステロイド、レーザーおよび光治療が考慮されうる。
2024年の総説も、同じ方向で整理されています(PMID: 38453786)。外用(アゼライン酸、クリンダマイシン、エリスロマイシン、メトロニダゾール、過酸化ベンゾイル、サリチル酸、ダプソン)と、全身(亜鉛、セファレキシン、セファドロキシル、アモキシシリン、アジスロマイシン、エリスロマイシン、ステロイド)を扱い、妊娠中の日焼け止めの使用、計画外の妊娠だった場合の対応にも触れています。
「妊娠中は何も使えない」ではありません。段階があります。
ただし——どれを、どの時期に、どの量で使うかは、必ず主治医の判断です。この記事は、そこを決めるためのものではありません。
資料の読み方に、落とし穴があります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
「授乳中に使用できると考えられる薬」「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」——国立成育医療研究センターが公開しているリストがあります。
多くの方が、これを調べます。そして、たいてい、こう読みます。
これが、逆です。✗「載っていない=載せるほどでもない=安全」
「適さない」とされている薬は、実はごく少数です。 アミオダロン、コカイン、放射性ヨウ素など、限られたものだけです。
そして、ニキビによく使われるアダパレンも過酸化ベンゾイルも、どちらのリストにも載っていません。
これは「安全」でも「危険」でもなく、「評価の対象になっていない」という意味です。
センター自身が、こう但し書きをしています。この表に記載されていない薬が、すべて安全な薬ではありません。
だから——リストを見て自分で決めるのではなく、リストを持って相談する。その使い方が、いちばん安全です。
はっきり避けるもの
一方で、判断が明確なものもあります。
内服のビタミンA系(イソトレチノインなど)は、胎児への影響がはっきりしています。妊娠中の使用はもちろん、妊娠を計画する段階から、扱いを決めておく必要があります。
外用のレチノイドについても、避けることが一般的です。塗り薬から体に入る量はごくわずかですが、内服での影響が明確であるため、慎重に扱われます。
「妊娠が分かったらやめる」では、時期的に間に合わない場合があります。理由と、逆算の手順は妊活を始める前に肌の治療を組み替える記事に書きました。
医療者が参照している資料
「この薬は妊娠中に使えるのか」をご自身で調べたくなることもあると思います。
医療者が参照する資料としては、妊娠中と授乳中の皮膚科用薬剤の安全性をまとめた総説があります(PMID: 24528911・24528912)。米国FDA、スウェーデン、オーストラリアの分類に加え、催奇形性の専門家による分類なども整理されています。
ただし、これらは医療者向けの資料であり、個別の判断に置き換わるものではありません。
そして、②で引いた2022年の総説は、こうも書いています。
これらの集団におけるニキビの管理について、ガイドラインと最新の資料が不足している。
「調べても出てこない」のは、探し方の問題ではありません。資料そのものが少ない領域です。
なお、2026年に欧州のガイドラインが改訂され、妊娠中の治療に関する勧告も見直されています(PMID: 41847993)。ただし短縮版であり、また日本のガイドラインとは推奨が異なる場合があります。
施術については
「危ない」というより「調べられていない」——これが実情です。
妊娠中の方を対象に、美容施術の安全性を前向きに検証した試験は、倫理的な理由からほとんど行われません。
だから「安全というデータがない」状態が続きます。それは「危険というデータがある」とは違いますが、受ける根拠にもなりません。
②の総説が難治例に挙げているレーザー・光治療も、「考慮されうる」という書き方です。
受診のときに、伝えるとよいこと
- 妊娠週数(②のとおり、時期ごとの配慮があります)
- いま使っているもの、すべて(処方薬・市販薬・サプリメント・化粧品)
- 産科の主治医は誰か(皮膚科と産科の双方に、双方のことを伝えてください)
- いちばん困っている症状はどれか(優先順位をつけるために)
- 授乳の予定があるか(③の話が、そのまま続きます)
まとめ
- 妊娠中の悪化は、ホルモンと生理的な変化が背景にあります(PMID: 36447117)
- 管理は、重症度に基づく段階的なアプローチです。 軽症〜中等症は外用、中等症〜重症は全身療法、難治例はステロイドや光治療
- 時期ごとの催奇形性と、母と児の病歴に、特別な配慮が要ります
- 「授乳中の使用に適さない」とされる薬は、ごく少数です
- アダパレンも過酸化ベンゾイルも、どちらのリストにも載っていません。それは「評価の対象になっていない」という意味です
- センター自身が「この表に記載されていない薬が、すべて安全な薬ではありません」と書いています
- 内服のビタミンA系は、はっきり避けます。妊娠を計画する段階から扱いを決めてください
- 施術は「危ない」より「調べられていない」。 安全のデータがない、という状態です
- 総説自身が「ガイドラインと最新の資料が不足している」と書いています
情報が少ない領域です。だからこそ、リストを見て自分で決めるのではなく、リストを持って相談していただけたらと思います。
この記事で触れた未承認医薬品について(医療広告ガイドラインに基づく記載)
本記事は、海外の総説に記載されている選択肢を紹介したものです。以下の成分は、いずれも国内では医薬品として承認されていません。
アゼライン酸(外用)- 未承認医薬品です。 日本国内で、ニキビに対する医薬品としての承認を受けていません(化粧品・医薬部外品としての配合とは別です)。
- 入手経路: 医師の責任のもとで輸入されたもの、または海外製品が用いられます。厚生労働省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」 もあわせてご確認ください。
- 国内承認品の有無: 同一の効能・効果で国内承認されている医薬品はありません。
- 諸外国での承認と安全性情報: 米国・欧州等でニキビおよび酒皶に対して承認されています。日本国内の承認とは別のものです。
- 主なリスク: 塗布部位の灼熱感・かゆみ・乾燥・紅斑、まれに色素の変化。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
- 未承認医薬品です。 日本国内で承認を受けていません。
- 入手経路: 医師の責任のもとで輸入されたものが用いられます。
- 国内承認品の有無: 同一の効能・効果で国内承認されている医薬品はありません。
- 諸外国での承認と安全性情報: 欧米等で重症のニキビに対して承認されています。いずれの国でも、妊娠に関する厳格な管理プログラムのもとで使用されます。
- 主なリスク: 胎児への重篤な影響(催奇形性)がはっきりしています。妊娠中は使用できません。妊娠を計画する場合は、休薬期間の設計が必要です。 そのほか、乾燥(口唇・皮膚・眼)、肝機能・脂質の異常、筋肉痛、抑うつ等の報告があります。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
本文④に書いたとおり、内服のビタミンA系については「妊娠が分かってからやめる」では間に合わない場合があります。必ず処方した医師にご確認ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。本文で挙げた薬剤名は、総説に記載されている選択肢を紹介したものであり、使用をおすすめするものではありません。妊娠中・授乳中の薬剤の使用は、必ず産科の主治医と皮膚科の担当医の双方にご確認ください。処方された薬を自己判断で中止・開始しないでください。
参考文献- Treatment of Acne Vulgaris During Pregnancy and Lactation: A Narrative Review. Dermatol Ther (Heidelb). 2022. PMID: 36447117(ナラティブレビュー・「資料が不足している」と明記)
- Management of Acne in Pregnancy. Am J Clin Dermatol. 2024. PMID: 38453786
- Update of the EuroGuiDerm evidence-based guideline for the treatment of acne—Short version. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2026. PMID: 41847993(短縮版・日本のガイドラインとは推奨が異なる場合があります)
- Safety of dermatologic medications in pregnancy and lactation: Part I. Pregnancy. J Am Acad Dermatol. 2014. PMID: 24528911
- Safety of dermatologic medications in pregnancy and lactation: Part II. Lactation. J Am Acad Dermatol. 2014. PMID: 24528912
- 国立成育医療研究センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院は診療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

