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Treatment2026-09-01

塗るヒアルロン酸と注入ヒアルロン酸は、まったく別のもの|そして注入には、危険な部位があります

Dr. みやか

Dr. みやか

9 min read

「ヒアルロン酸の化粧品を使っているので、注入はしなくていいかなと思って」

この2つは、同じ名前がついているだけで、まったく別のものです。

  • 塗るヒアルロン酸 — 肌の表面で水を抱える
  • 注入ヒアルロン酸 — 肌の内側に、物理的に置く

そして、後者には知っておくべきリスクがあります。日本の指針が、はっきり書いています。


塗るヒアルロン酸 ——表面で水を抱える

ヒアルロン酸は、非常に大きな分子です。

皮膚の角層は、通さないための構造です。分子量が500ダルトンを超えると皮膚吸収は起こりにくいとされています(PMID: 10839713)。ヒアルロン酸は、その基準をはるかに超える大きさです。

つまり——塗ったヒアルロン酸は、角層を越えて真皮まで届くことはありません。

ではなぜ、化粧品に入っているのか。 届かなくても、肌の表面で水を抱える働きがあるからです。保湿剤として、それは理にかなっています。「届かない=無意味」ではありません。役割が違うだけです。

なお、分子を小さくした「低分子ヒアルロン酸」「加水分解ヒアルロン酸」も使われます。ただし、小さくすれば真皮に届いてボリュームを出す、という話にはなりません。 浸透の限界についてはこちらの記事に書きました。

注入ヒアルロン酸 ——日本の指針を見てみます

一方、注入はまったく別の行為です。針で真皮や皮下に、物理的に物質を置きます。

日本には、美容医療そのものを扱った指針があります。『美容医療診療指針(令和三年度改訂版)⁠』の CQ2-2-1「顔のシワ治療に、ヒアルロン酸製剤注入は勧められるか?」 を見てみましょう。

推奨度 2(治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨する)

ヒアルロン酸製剤注入は、簡便な施術で顔のシワの改善が期待でき、合併症は軽微なものがほとんどであるため、推奨することができる。ただし血管内への誤注入による皮膚壊死や失明などの重篤な合併症の報告があるため、十分な注意が必要である。

そして、この指針はエビデンスの内訳も示しています。

エビデンス:A;0、B;1、C;4

レベルAの研究は、ゼロです。 解説には「観察コホート研究が1件ある」とあります。

つまり——これだけ広く行われている施術でありながら、質の高い比較試験はほとんど存在しません。

どれくらい行われているか

同じ指針が、日本での施術数を挙げています。

年間14.9万件(2017年)、12.4万件(2018年) 「その簡便性から、我が国でも非常に多くの施術がなされており、すでに一般的な施術となっている」

(日本美容外科学会 第2回全国美容医療実態調査より)

年に十数万件。 この規模で行われていることと、エビデンスレベルAがゼロであることが、同時に成立しています。

合併症 ——ここを、正確に読んでください

指針の記述を、順にたどります。

まず、大半は軽微です。

合併症のほとんどは、腫れや痛み、発赤などの軽微なものとされている。

しかし。

血管内へ誤注入された際には、その支配領域に皮膚壊死などの障害を引き起こすが、時に支配領域を越えて失明や脳梗塞などの重篤な合併症を生じることが報告されている。

そして——発生率については、こう書かれています。

ヒアルロン酸製剤注入施術総数および合併症の発生数の把握が困難なため、発生率や有病率等は明らかでない。

「めったに起きません」と言われることがありますが、その頻度は、日本の指針の時点で「明らかでない」とされています。 起きにくいことと、頻度が分かっていることは別です。

危険な部位があります

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

指針の解説には、こうあります。

最近の症例集積研究では、ヒアルロン酸製剤の注入を原因とする失明は、鼻部、眉間部、および前額部への注入に集中しており、顎や口唇といった顔面下部への注入を原因とする失明の発症の報告は少ない。 このことから、顔面内でも危険部位とそうでない部位の存在が明らかになりつつある。

機序も説明されています。外頸動脈系と内頸動脈系の動脈のあいだには吻合(つながり)があり、顔の皮下を走る動脈に誤注入されると、そのつながりを介して網膜中心動脈などに閉塞が及ぶと考えられています。

整理すると、こうなります。

| 部位 | 失明の報告 | |---|---| | 鼻・眉間・額 | 集中している | | 顎・口唇(顔面下部) | 報告は少ない |

「どこに入れるか」で、リスクの質が変わります。 鼻や眉間への注入を検討されている方は、この違いを知ったうえで判断してください。

万一のときの治療は、確立していません

「何かあっても、溶かす薬があるから大丈夫」——そう説明されることがあります。

指針の記述は、こうです。

ヒアルロン酸を分解する酵素の投与が、動脈内投与や球後注射など種々の投与経路で試みられている。 有効例も報告されているが、改善した症例数も少なく、治療法が確立されたとは言えない。

「戻せるから安心」という説明は、指針の記述とずれています。 溶かす手段はある。けれど、失明が起きたあとに視力が戻る治療は、確立していません。

承認品と未承認品

もうひとつ、指針が明記していることがあります。

承認状況:承認品もあるが、未承認品も広く使用されている。

同じ「ヒアルロン酸注入」でも、使われている製剤が国内承認を受けているかどうかは、施設によって違います。

未承認の医薬品・医療機器を使用して健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度の対象になりません。 これは、受ける前に確認しておくべき情報です。

受ける前に、確認するとよいこと

  1. 使う製剤は、国内で承認されているものですか(未承認なら、救済制度の対象外です)
  2. どの部位に入れますか(鼻・眉間・額は、失明の報告が集中している部位です)
  3. 血管内誤注入が起きた場合、どう対応しますか(対応できる体制があるか)
  4. 合併症について、書面で説明を受けられますか(指針は「十分なインフォームド・コンセントは必須」としています)
  5. 入れたあと、気になったら相談できますか

1と2に、はっきり答えられない施設では受けないでください。

まとめ

  • 塗るヒアルロン酸と注入ヒアルロン酸は、別のものです。 塗ったものは角層を越えません。表面で水を抱える保湿剤です
  • 日本の『美容医療診療指針(令和三年度改訂版)』では、注入は推奨度2(弱く推奨)⁠。エビデンスは A;0、B;1、C;4 — レベルAの研究はゼロです
  • 日本での施術は年間14.9万件(2017年)、12.4万件(2018年)
  • 合併症の大半は軽微⁠。ただし血管内誤注入で皮膚壊死、時に失明や脳梗塞の報告があります
  • 発生率は「明らかでない」と指針が明記しています
  • 失明の報告は、鼻・眉間・額への注入に集中しています。顔面下部の報告は少ない
  • 万一のときの治療は「確立されたとは言えない」とされています
  • 承認品もあるが、未承認品も広く使用されている⁠。未承認品は救済制度の対象外です

ヒアルロン酸注入は、簡便で、効果が見えやすく、多くの方が受けている施術です。指針も「勧めることができる」としています。

そのうえで——重篤な合併症は、確率は低くとも、起きたときに戻せません。

「どこに入れるか」を、施術を受ける前に確認する。それだけで、リスクの大きさが変わります。

なお、量の考え方については「やりすぎない」ヒアルロン酸の記事に書きました。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。注入部位・製剤・体質によってリスクは変わります。実際の判断は、診察を受ける医師にご相談ください。

参考文献
  • 日本美容外科学会 美容医療診療指針(令和三年度改訂版)CQ2-2-1
  • The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol. 2000. PMID: 10839713

※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

Dr. Miyaka Signature

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

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