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Injectable2026-08-31

咬筋ボトックスの第2相試験を読む|187人・12か月・CTと歯科検査つき、そして「笑顔への影響」4例

Dr. みやか

Dr. みやか

10 min read

「エラの張りを、注射で細くできると聞きました」

咬筋(噛むときに使う筋肉)にボツリヌス毒素を注射する方法です。この治療については、プラセボと比べた第2相試験があります。

数字と、条件と、報告された副作用を、そのまま読みます。


187人・12か月・二重盲検プラセボ対照

2024年に『Journal of the American Academy of Dermatology』に報告された試験です(PMID: 39522729)。

18〜50歳で、両側の咬筋の張り出しが「著明/非常に著明」(咬筋張り出しスケールで4以上)の成人187人を、 オナボツリヌストキシンA(24・48・72・96単位)またはプラセボに無作為に割り付け。 多施設・二重盲検・プラセボ対照の第2相試験で、期間は12か月。 180日目にスケールが4以上であれば、再治療。

90日目の下顔面の体積を、Vectraの3次元写真撮影で測定。 安全性の評価には、CT(コンピュータ断層撮影)と歯科検査が含まれた。

CTと歯科検査まで入れている点は、注目に値します。「骨や歯に影響が出るのではないか」という懸念に、直接答えようとした設計です。

結果

90日目、下顔面の体積の減少と、レスポンダー(スケール3以下)の割合は、プラセボと比べて有意に大きかった(それぞれ p < .001、p ≦ .008)。 再治療でも、同様の有効性が観察された。

用量に関連した安全性の傾向は認められず、下顎骨や歯に臨床的に問題となる変化も生じなかった。 96単位群で、笑顔への局所的な影響が報告された(4例)。

整理します。
  • 効果は、プラセボと比べて有意に出ています
  • 骨と歯については、CTと歯科検査で問題となる変化は見られませんでした
  • ただし、最も高い用量(96単位)で、笑顔への影響が4例出ています

読むときの注意

この試験には、明記された限界があります。
  • 著者ら自身が「各治療群あたりの症例数が限られる」を限界として挙げています。 187人を5群に分けているためです
  • 著者4名が Allergan Aesthetics(AbbVie)の所属です。製剤のメーカーによる試験であり、利益相反があります
  • 第2相試験です。より大きな第3相試験の段階ではありません

そして、20報をまとめた総説もあります(PMID: 37808377)。

含まれた研究は、1報を除いてすべて前向き研究(無作為化比較試験ではありません)。追跡は3〜48か月。 望ましい結果を維持するには、定期的な間隔での再治療が推奨される。 処置は診察室で行われ、15分以内に完了した。手技に関連する永続的な有害事象はなかった。 用量と頻度を最適化するには、より大きなサンプルサイズの無作為化比較試験が必要である。

実際に、知っておいていただきたいこと

繰り返しが前提です

③のとおり、維持には定期的な再治療が要ります。1回で終わる治療ではありません。

②の「笑顔への影響」について

咬筋のすぐ近くには、笑うときに働く筋肉があります。注射の位置や深さ、そして量が、ここに影響しえます。

96単位という、この試験でいちばん高い用量で報告されているという点は、押さえておいてよいと思います。

そして——出てしまった場合、元に戻す薬はありません。効果が切れるまで待つことになります。

噛みしめの症状がある方は、別の相談先があります

咬筋が張る背景に、歯ぎしりや食いしばりがあることがあります。その場合、まず歯科・口腔外科での評価が筋道です。

顎関節の症状、歯のすり減り、朝の顎のだるさ——これらがある方は、美容目的の前に、そちらを診てもらってください。

噛む力への影響

咬筋は、噛むための筋肉です。弱めれば、硬いものが噛みにくくなることがあります。どの程度かは、量と個人差によります。

カウンセリングで聞いていただきたいこと

  • 何単位を、片側何か所に打ちますか(②のとおり、用量で報告が変わります)
  • 笑顔への影響が出た場合、どうなりますか(待つことになります。期間の目安を聞いてください)
  • 噛む力への影響は、どの程度を想定していますか
  • 何回で、いくらですか(維持には再治療が要ります)
  • 歯ぎしり・食いしばりの評価は、済んでいますか
  • この使い方は、国内で承認された範囲ですか

まとめ

  • 187人・12か月・多施設・二重盲検プラセボ対照の第2相試験があります(PMID: 39522729)
  • 90日目の下顔面の体積減少とレスポンダー率は、プラセボより有意でした
  • CTと歯科検査で、下顎骨や歯に臨床的に問題となる変化は認められませんでした
  • 96単位群で、笑顔への局所的な影響が4例報告されています
  • 利益相反があります(著者4名がAllergan Aesthetics所属)。著者らは「各群の症例数が限られる」を限界に挙げています
  • 20報の総説では、ほぼすべてが無作為化されておらず、「用量と頻度の最適化には、より大きなRCTが必要」とされています(PMID: 37808377)
  • 維持には定期的な再治療が要ります
  • 歯ぎしり・食いしばりの症状がある方は、先に歯科での評価を

この治療は、比較的しっかり調べられているほうです。そのぶん、限界も具体的に書かれています。


この記事で触れた治療について(医療広告ガイドラインに基づく記載)

ボツリヌス毒素製剤の咬筋への注射(いわゆる「エラボトックス」)

  • 承認された効能・効果の範囲外の使用(適応外使用)です。 国内で承認されているボツリヌス毒素製剤の美容目的の効能は、眉間および目尻の表情じわに対するものであり、咬筋に注射して下顔面の輪郭を変える使い方は、承認された範囲に含まれていません。
  • 国内で承認されている医薬品を、承認された効能・効果および用法・用量と異なる方法で使用するものです。
  • 諸外国での状況: 本文で引用した試験は第2相であり、この目的での承認を得た段階ではありません。 多くの国で承認外の使用として行われています。
  • 承認された効能・効果および用法・用量の範囲外での使用にあたるため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。

主なリスク・副作用: 注射部位の内出血・腫れ・痛み、笑顔の左右差・表情の変化(本文②のとおり、高用量で報告があります)、噛む力の低下・硬いものが噛みにくくなる⁠、頬のこけた印象、頭痛、まれに全身性の症状。効果も副作用も、消えるまで待つことになります。元に戻す薬はありません。

妊娠中・授乳中の方、神経筋接合部の疾患のある方には行いません。顎関節症・歯ぎしり等の症状がある方は、先に歯科・口腔外科での評価をお勧めします。

参考文献
  • Reduction of masseter muscle prominence after treatment with onabotulinumtoxinA: Primary results from a randomized phase 2 study. J Am Acad Dermatol. 2024. PMID: 39522729(著者4名がAllergan Aesthetics所属・利益相反あり)
  • A review on bigonial width reduction by botulinum toxin injections in masseter. Bioinformation. 2023. PMID: 37808377(ほぼすべてが無作為化されていない前向き研究)

※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

Dr. Miyaka Signature

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

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