「表情を止めずに、肌質だけ良くする注射があると聞きました」
皮内に浅く、薄めたボツリヌス毒素を細かく打つ方法です。海外では「マイクロボトックス」「メソボトックス」などと呼ばれます。
この方法について、2024年に系統的レビューとメタ解析が出ています(PMID: 39185380)。そこに書かれている数字を、そのまま読みます。
集まったのは、10研究・153人でした
2008年1月から2023年3月までの各データベースを検索。 適格基準を満たしたのは10研究——無作為化比較試験5件と、前向きコホート研究5件。 参加者は、合計153人。
「合計」で153人です。1研究あたり15人ほど、という規模になります。
何に効いて、何に効かなかったか
皮内ボツリヌス毒素Aは、以下の項目に好影響を示した。 皮脂の産生 毛穴の大きさ 紅斑指数 顔のしわ 肌のきめと弾力 全体的な引き上げ
ただし、皮膚の水分量には認められなかった。
「肌質が良くなる」という言い方の中身が、ここで分かれます。
皮脂と毛穴に働く可能性は示されました。一方、保湿の側は、この解析では動いていません。
保湿は、保湿剤の仕事です。 保湿の記事に、確かめられている範囲を書きました。
そして、いちばん重要な一文
このレビューには、試験逐次解析(trial sequential analysis)という手法が使われています。
これは、「いま集まっているデータの総量は、結論を出すのに十分か」を判定するためのものです。
結果です。いずれも、試験逐次解析における必要な情報量(required information size)に達しなかった。
つまり——「良い方向の結果は出ているが、それが本物かどうかを判定するには、データがまだ足りない」ということです。
著者らの結論も、そのとおりに書かれています。
皮膚の質と顔の若返りの複数の項目で、良好な結果が示唆される。 しかしながら、決定的な結論を確立するには、より質の高い研究が必要である。
「効かない」ではありません。「まだ判定できない」です。
この2つは違います。そして、この違いを言うために、著者らはわざわざ試験逐次解析を使っています。誠実な書き方だと思います。
読むときの注意
このレビューには、注意点もあります。- 利益相反があります。 著者の多くが美容医療の開業医で、ボツリヌス毒素の分野で著名な臨床家も含まれています。この治療を実際に行っている立場の人たちが書いたレビューだ、という前提で読む必要があります
- 10研究のうち5件は前向きコホート研究で、無作為化されていません
- 「引き上げ(facelift)」のような主観の入りやすい項目が、評価に含まれています
それでも、この分野で系統的レビューとメタ解析が行われていること自体は、進歩です。そして著者ら自身が「まだ足りない」と書いています。
受ける前に、知っておいていただきたいこと
皮内注射という方法そのものについて、実務的なことを書きます。
- 筋肉に入れば、筋肉が動かなくなります。浅く打つ手技であるほど、深さの管理が結果を決めます
- 顔の表情に関わる筋肉は、場所によって非常に浅いところにあります。打つ場所と深さを、解剖に基づいて選ぶ必要があります
- 効果は永続しません。 繰り返しが前提です
- ②のとおり、水分量には効果が認められていません。 乾燥が主訴なら、別の手当てが要ります
- 毛穴については、原因が複数あります。 毛穴の記事に、原因別の整理を書きました
カウンセリングで聞いていただきたいこと
- 「肌質改善」とは、具体的にどの項目のことですか(②のとおり、項目によって結果が違います)
- どの深さに、どのくらいの濃度で打ちますか
- 表情に影響が出た場合、どうなりますか(元に戻るまで待つことになります)
- 何回で、いくらですか
- この使い方は、国内で承認された範囲ですか
まとめ
- 集まった研究は10件・合計153人です(PMID: 39185380)
- 皮脂・毛穴・紅斑指数・しわ・きめ・弾力・引き上げに好影響が示唆されました
- 皮膚の水分量には、認められませんでした
- 試験逐次解析で、いずれも「必要な情報量に達しなかった」と明記されています
- 著者らは「決定的な結論を確立するには、より質の高い研究が必要」と結論しています
- 利益相反があります(著者の多くが美容医療の開業医)。10研究のうち5件は無作為化されていません
- 浅く打つ手技であるほど、深さの管理が結果を決めます
「効かない」ではなく「まだ判定できない」。そう書いてある論文が1本ある、というのが、いまの状況です。
この記事で触れた治療について(医療広告ガイドラインに基づく記載)
ボツリヌス毒素製剤の皮内注射(マイクロボトックス/メソボトックス等と呼ばれるもの)
- 承認された効能・効果の範囲外の使用(適応外使用)です。 国内で承認されているボツリヌス毒素製剤の美容目的の効能は、眉間および目尻の表情じわに対する筋肉内注射であり、本記事で扱った「皮内に薄く広く注射して肌質を変える」使い方は、承認された範囲に含まれていません。
- 国内で承認されている医薬品を、承認された用法・用量および効能・効果と異なる方法で使用するものです。
- 諸外国での状況: 海外でも、この使い方は多くの国で承認外です。本文で引用した研究は、いずれもこの承認外の使用を検討したものです。
- 承認された用法・用量の範囲外での使用にあたるため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。
主なリスク・副作用: 注射部位の内出血・腫れ・痛み、意図しない筋肉への作用による表情の左右差・眉の下垂・まぶたの下垂・口元の動かしにくさ、頭痛、まれに全身性の症状。効果も副作用も、消えるまで待つことになります。元に戻す薬はありません。
妊娠中・授乳中の方、神経筋接合部の疾患のある方には行いません。
参考文献- Intradermal Botulinum Toxin A on Skin Quality and Facial Rejuvenation: A Systematic Review and Meta-analysis. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2024. PMID: 39185380(10研究・合計153人/試験逐次解析で必要な情報量に達せず/著者の多くが美容医療の開業医)
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

