「梅雨に入ってから、背中と胸にニキビみたいなものが増えました」
この訴えのとき、必ず頭に置くものがあります。マラセチア毛包炎です。海外では「fungal acne(真菌性のニキビ)」とも呼ばれます。
そして——高温多湿は、この病気の危険因子として、文献にはっきり書かれています。
どういうものか
マラセチアは、もともと私たちの皮膚にいる常在の真菌(カビの一種)です。普段は問題を起こしません。
ある条件がそろうと、毛穴の中で増えて、炎症を起こします。
2020年の系統的レビューが、その条件を挙げています(PMID: 32012377)。
内因性(免疫抑制など)または外因性(高い気温と湿度、衣服)が毛包とその上の皮膚の微小環境に影響したとき。 かゆみを伴う、毛包に一致した丘疹・膿疱の発疹として、体幹の上部(胸・背中)に分布する。 若年〜中年の成人、および免疫が低下している方によく起こる。
2026年に出た総説も、同じことを書いています(PMID: 42081639)。
危険因子には、暑く湿った気候、毛包の閉塞、免疫抑制が含まれる。
「梅雨に、胸と背中に、かゆみのあるブツブツが増えた」——この形が、いちばん典型的です。
ニキビとの見分けが、難しいところです
ここが本題です。2020年の系統的レビューに、こう書かれています。
毛包炎の鑑別診断にマラセチア毛包炎を含めることは、しばしば見落とされており、必要とされる標的的な診断手技が、常に実施されているわけではない。
2026年の総説も、同じ問題を指摘しています。
マラセチア毛包炎の臨床像は尋常性痤瘡(ニキビ)やその他の皮膚疾患に似ており、誤診、治療の遅れ、そして患者において何年も持続することにつながる。
「何年も続く」と書かれています。ニキビとして治療されていて、なかなか良くならない場合に、ここが混ざっていることがあります。
そして、もうひとつ大事な事実があります。マラセチア毛包炎の有病率は、尋常性痤瘡と診断された患者において、一般集団よりも高い。
ニキビがある方ほど、これも起きやすい。つまり、「どちらか」ではなく「両方ある」ことがあります。
見分けの手がかり
診断は最終的に医師が行うものですが、気づくための手がかりは共有できます。
| | ニキビ(尋常性痤瘡) | マラセチア毛包炎 | |---|---|---| | かゆみ | 通常は目立たない | かゆいことが多い | | 場所 | 顔が中心。胸・背中にも | 胸・背中など体幹の上部が中心 | | 見た目 | 面皰(白ニキビ・黒ニキビ)が混じる | 大きさのそろった丘疹・膿疱が、まとまって出る | | 悪化する時期 | 一年を通じて | 高温多湿の時期・汗をかいたあと |
いちばんの手がかりは、「かゆみ」と「面皰があるかどうか」だと思っています。
ただし、これは目安です。②に書いたとおり、両方が同時にあることもあります。
どう確かめるか
系統的レビューは、確認の方法もはっきり書いています。
テープストリッピングまたは面皰圧出器による採取と、検体の顕微鏡検査により、通常は菌糸を伴わない単極出芽の酵母細胞としてマラセチアが同定される。 ただし、毛包との解剖学的な関連をもって診断を確定するのは、生検である。
顕微鏡で見る、という手順があります。外から見ただけでは決まりません。
自己判断で抗真菌薬を塗らないでください
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
2026年の総説は、この病気への関心が高まった背景と、そこで起きている問題を、はっきり書いています。
論文が、名指しで懸念しています。 理由は、単純です。マラセチア毛包炎への関心は近年高まっており、これはおそらくソーシャルメディアの流行によるものである。 そしてそれが、診断が確定していないまま、患者が不適切に抗真菌薬を使用してしまうことへの懸念につながっている。
- これがニキビだった場合、抗真菌薬は効きません。その間、ニキビは進み、跡が残る方向に動きます
- ②のとおり、両方あることがあります。片方だけ塗っても、片方が残ります
- 「効かなかった」と分かるまでの時間が、そのまま失われます
治療の主軸は抗真菌薬だと、2026年の総説も書いています。ただしそれは、診断がついたあとの話です。
そして同じ総説は、興味深いことも書き添えています。
尋常性痤瘡とマラセチア毛包炎には共通する発症の機序があるため、過酸化ベンゾイルやレチノイドといった、両方の病態を標的とするニキビの外用薬が有益である可能性がある。
「可能性がある」という書き方です。ここも、まだ断定はされていません。
梅雨の時期に、できること
確かめる前でも、環境の側は整えられます。 危険因子に挙げられているのは、高温多湿と、毛包の閉塞でした。
- 汗をかいたら、なるべく早く拭く・着替える(汗そのものの扱いは汗による肌荒れの記事に書きました)
- 通気性の悪い衣服を、長時間そのままにしない(文献が「衣服」を外因性の要因に挙げています)
- 油分の多いものを、胸や背中に厚く塗らない(毛包の閉塞のほうです)
夏の環境全般については、夏に肌がおかしくなる原因を分ける記事にまとめています。
まとめ
- マラセチア毛包炎は、常在の真菌が毛穴で増えて炎症を起こすものです
- 高温多湿・毛包の閉塞・免疫抑制が危険因子として、文献に明記されています(PMID: 42081639)
- かゆみを伴う、胸や背中の毛包に一致した丘疹・膿疱という形が典型です(PMID: 32012377)
- 鑑別に入れること自体がしばしば見落とされ、何年も持続することがあると書かれています
- ニキビの患者では、一般集団より有病率が高い。 「両方ある」ことがあります
- 確認には、顕微鏡検査(菌糸を伴わない単極出芽の酵母)が要ります。 見ただけでは決まりません
- 診断がつく前に、自己判断で抗真菌薬を塗らないでください。 論文がこの点を名指しで懸念しています
- 環境の側(汗・衣服・厚い油分)は、確かめる前から整えられます
「梅雨になると、胸と背中にブツブツが出ます」——この訴えは、一度、顕微鏡で見てもらう価値があります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。マラセチア毛包炎とニキビは見た目が似ており、確定には検査が必要です。自己判断で抗真菌薬を使用せず、皮膚科を受診してください。
参考文献- Malassezia Folliculitis Presentation, Diagnosis, and Treatment: A Review of "Fungal Acne". J Drugs Dermatol. 2026. PMID: 42081639
- Critical synthesis of available data in Malassezia folliculitis and a systematic review of treatments. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020. PMID: 32012377
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院は診療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

