「リジュランって、実際どうなんですか」
この治療について書かれた記事は、たくさんあります。そこで引かれている論文を、一本ずつ当たり直しました。
分かったことを、順に書きます。途中に、2026年3月に撤回された研究が1本出てきます。
まず、言葉そのものが定まっていません
PDRN(ポリデオキシリボヌクレオチド)とポリヌクレオチド(PN)。この2つは、文献の中で入れ替わりながら使われてきました。
2025年に出た総説が、この点を正面から扱っています(PMID: 39858543)。同じ「PDRN」という語が、論文によって50 kDaの断片を指したり、10,000 kDaの高分子を指したりしている——著者らはこれを「医学・科学の界隈にかなりの混乱をもたらしている」と書き、分子量1500 kDaを境に呼び分けようという提案を出しました。
ここは、注意して読む必要があります。- この総説はナラティブレビューであり、系統的レビューではありません
- 著者らは、PDRN/PN製剤を開発している企業(LOUNA REGENERATIVE、Albomed、LAM Biotechnologies、TEC-PHARMA)に所属しています。 利益相反があります
それでも、「呼び名がそろっていない」という指摘自体は動きません。 そして——呼び名がそろっていないということは、「PDRNの研究」と書かれていても、何を注射した研究なのかが一定しない、ということです。
これが、以降の話の前提になります。
いちばん質の高い臨床データは、27人の左右比較でした
美容目的での比較試験として、比較的しっかりしているものが1本あります(PMID: 32248707)。
27人の目のまわりを、左右で分けた無作為化の試験です。片側にPNフィラー、反対側に非架橋のヒアルロン酸を、2週間おきに3回注射しました。
結果です。
正確に読むと、こうなります。見た目の評価(VAS・全般的美容改善スケール)は、PN側と非架橋HA側で有意差がありませんでした。
機器で測った項目では、弾力と水分の改善率はPN側が高く、きめの粗さと毛穴の体積の改善率もPN側が高いという結果でした。真皮の密度には、有意差がありませんでした。
重篤な有害事象の報告はありませんでした。
- 「見た目の判定では差がつかなかった」 のが、この試験の主要な結果です
- 27人です。 一般化するには小さい規模です
- 比べた相手は「非架橋の」ヒアルロン酸——いわゆるスキンブースターであって、ボリュームを出すためのフィラーではありません
「ヒアルロン酸と同等の効果」という書かれ方をときどき見かけますが、同等だったのは非架橋HAとの見た目の評価で、しかも差がつかなかった、という意味です。
根拠にされていた大きな研究が、撤回されています
もう一本、よく引かれていた研究があります。
218人のアジア人を対象に、目尻のしわ(カラスの足跡)でポリカプロラクトン製剤とリジュランを比べた無作為化試験(J Cosmet Dermatol 2024年9月公開)。規模が大きく、話が具体的なので、多くの記事が根拠にしていました。
この論文は、2026年3月に撤回されました(撤回通知・PMID: 41834780)。
理由は、撤回通知にこう書かれています。
著者らの申し出により撤回された。 臨床試験で使用したフィラーの取り違えが生じていた。DLMR01フィラーはペグ化ポリカプロラクトンを含むと報告されていたが、実際には純粋なポリカプロラクトンのみで構成されていた。両者は生体適合性・粘度・生分解の性質が異なる別の材料であるため、この取り違えは報告された方法に大きく影響し、研究結果の信頼性を損なう。
著者らが自分で申し出た撤回です。 不正の話ではありません。それでも、この試験の数字を根拠として使うことはできなくなりました。
この記事の以前の版も、この種の研究に寄りかかって「同等の有効性が報告されました」と書いていました。そこは、取り下げます。
ニキビ跡については、17人の報告があります
当院が向き合う領域なので、ここも見ておきます(PMID: 40826297)。
ニキビ跡(グレード2〜5)の17人を3群に分け、ボツリヌス毒素の皮内注射・PDRN・その併用を、4週おきに3回行った試験です。16週後のPOSAS(瘢痕の評価スケール)の改善は、こうなりました。
| 群 | POSASの改善 | |---|---| | 併用 | 12.0ポイント | | ボツリヌス毒素のみ | 9.0ポイント | | PDRNのみ | 6.1ポイント |
正確に書いておきます。- 17人を3群に分けています。 1群あたり6人前後です
- 非盲検(オープンラベル)です。評価する側も、何を打ったか分かっています
- この規模では、「併用が優れている」とも「PDRNが効く」とも、まだ言えません
PDRN単独が3群でいちばん小さかった、という数字も、そのまま書いておきます。
ニキビ跡の治療全体については、ニキビ跡は3種類ある記事に整理しています。
「肌が目覚める」という説明は、培養細胞の話です
PDRNの作用機序として、アデノシンA2A受容体の活性化がよく挙げられます。これは実際に確かめられています。
- 微細藻類由来のPDRNが、A2A受容体を介して血管内皮増殖因子(VEGF)の発現とERK・AKT等の経路を動かした(PMID: 39994014・著者に化粧品会社の研究所所属者を含みます)
- PDRNが線維芽細胞ではERKのリン酸化とコラーゲン蓄積を増やし、角化細胞では逆にERKを抑えて炎症性サイトカインを減らした(PMID: 37350391)
どちらも、シャーレの中の細胞に加えた実験です。 人の顔に注射した結果ではありません。
機序が分かっていることと、人で効くことが確かめられていることは、別です。「肌が目覚める」「再生力を呼び覚ます」といった説明の多くは、この培養細胞の段階の話を、人の実感の言葉に置き換えたものです。
メタ解析は、まだありません
念のため、PubMedで「PDRN/ポリヌクレオチド × 美容目的 × メタ解析」を検索しました。
該当0件でした。つまり——複数の試験をまとめて「全体としてどれくらい効くのか」を推定した研究が、まだ存在しません。 個別の小さな試験が並んでいる段階です。
ヒアルロン酸やレーザーには、この段階の研究が既にあります(たとえばピコレーザーの記事で扱った6件のRCTのメタ解析)。同じ物差しで並べたとき、PDRNはまだその手前にいます。
それでも検討されるなら、確認していただきたいこと
以上を踏まえたうえで、受けるかどうかを決めるのはご本人です。決める前に、次の点だけは知っておいていただきたいと思います。
- ヒアルロン酸と違い、分解酵素で溶かすことができません。 硬結が生じた場合、自然に吸収されるのを待つことになります
- 複数回の継続が前提です。 1回で完結する治療ではありません
- サケ由来の成分を含みます。 魚類・甲殻類のアレルギーがある方は、必ずお申し出ください
- 国内未承認です。 副作用が起きても、医薬品副作用被害救済制度の対象になりません
- 医師に「どの製剤を、どの分子量のものを使うのか」を聞いてよいと思います。①で書いたとおり、呼び名が同じでも中身が違うことがあります
まとめ
- PDRNとPNは、文献の中で混用されています。 呼び分けの提案が出たのは2025年です(PMID: 39858543・著者は製剤の開発企業に所属)
- 美容目的で最も質の高い比較試験は27人の左右比較で、見た目の評価では非架橋HAと有意差がありませんでした(PMID: 32248707)
- よく引用されていた218人の試験は、2026年3月に撤回されています(材料の取り違え・PMID: 41834780)
- ニキビ跡の報告は17人・非盲検で、PDRN単独の改善が3群で最も小さいものでした(PMID: 40826297)
- 「肌が目覚める」の根拠とされる機序は、培養細胞の実験です(PMID: 39994014・37350391)
- メタ解析は、まだ1本もありません
- 溶かせない・複数回前提・魚由来・救済制度の対象外——ここは先に知っておいてください
論文まで戻って読むと、思っていたより手前にありました。
これは「効かない」という意味ではありません。「まだ確かめられていない」という意味です。その2つは、はっきり違います。
次に受けるかどうかを考えるときは、どの製剤を、何回、いくらで——この3つを先に聞いてみてください。
未承認医薬品についてのご案内(医療広告ガイドラインに基づく記載)
リジュラン(ポリヌクレオチド製剤)- 未承認医薬品です。 日本国内で薬機法に基づく承認を受けていません。
- 入手経路: 医師の責任のもと、薬監証明を経て輸入されるものです。厚生労働省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」 もあわせてご確認ください。
- 国内承認品の有無: 同一の効能・効果で国内承認されている医薬品はありません。
- 諸外国での承認と安全性情報: 韓国で医薬品として承認され、同国および欧州・アジア各国で使用されています。本記事に書いたとおり、大規模な比較試験による有効性の検証は限られており、よく引用されていた1本は2026年3月に撤回されています。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
主なリスク: 注入直後の膨疹(ほぼ全ての方に生じ、24〜48時間で吸収されます)、発赤(約65%)、腫れ(約45%・目元は特に腫れやすい)、硬結・結節(約10%)、感染(0.3〜0.8%)、注入部位の疼痛・内出血。サケ由来の成分を含むため、魚類・甲殻類のアレルギーがある方はお申し出ください。
ヒアルロン酸と異なり、分解酵素で溶かすことができません。 硬結が生じた場合は自然に吸収されるのを待つことになります。
参考文献- Comparison of the effects of polynucleotide and hyaluronic acid fillers on periocular rejuvenation: a randomized, double-blind, split-face trial. J Dermatolog Treat. 2020. PMID: 32248707
- From Polydeoxyribonucleotides (PDRNs) to Polynucleotides (PNs). Biomolecules. 2025. PMID: 39858543(著者に製剤開発企業所属者を含む・ナラティブレビュー)
- RETRACTION notice: 「...Polycaprolactone and Polynucleotide Fillers in the Correction of Crow's Feet」. J Cosmet Dermatol. 2026. PMID: 41834780 (撤回された原著は、この撤回通知の中に書誌情報が記載されています。撤回済みのため、当サイトでは原著を出典として引用しません)
- Air-Botulinum Neurotoxin and Polydeoxyribonucleotide Injections for Acne Scar Treatment. Aesthetic Plast Surg. 2025. PMID: 40826297(n=17・非盲検)
- Effects of Chlorella protothecoides-derived polydeoxyribonucleotides on skin regeneration and wound healing. Arch Dermatol Res. 2025. PMID: 39994014(培養細胞)
- Polydeoxyribonucleotide exerts opposing effects on ERK activity in human skin keratinocytes and fibroblasts. Mol Med Rep. 2023. PMID: 37350391(培養細胞)
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

