「肌のために、栄養の血液検査を受けたほうがいいですか」
この質問に、正直にお答えします。「内側も見る」という考え方自体は、私も大切にしています。そのうえで——案内でよく使われる言い方のいくつかには、思ったほど根拠がありませんでした。
皮膚科領域のサプリメントを、まとめて検討したレビュー
2020年に米国皮膚科学会誌に掲載されたレビューが、亜鉛・ビオチン・ビタミンD・ニコチンアミド・Polypodium を扱っています(PMID: 32360756)。
そこでの評価です。最も有望なエビデンスがあるのは、ニコチンアミドによる非黒色腫皮膚がんの予防である。 亜鉛とビオチンについては、推奨するには不十分である。 ビタミンDについては、一部の人でメラノーマのリスク低下や進行に関する証拠があり、Polypodiumには光保護の役割がある。 ただしどちらも、適切な用量を決めるには、追加の質の高い研究が必要である。
「亜鉛は肌に必要」という説明はよく見ますが、このレビューの評価は「推奨するには不十分」です。
ビタミンDについても、「適切な用量を決めるには追加の研究が必要」という段階です。
飲むもの全般の読み方は、飲む美容成分の記事に整理しました。
鉄・フェリチンについて
「フェリチンが低いと、肌がくすむ・乾燥する・クマが慢性化する」
この説明の根拠を探しました。フェリチン値と肌の状態(くすみ・乾燥・クマ)を結びつけた臨床試験を、見つけられませんでした。
「効かない」でも「関係ない」でもありません。「確かめた報告に行き当たらなかった」という意味です。
そのうえで、はっきりしていることもあります。- 鉄欠乏性貧血は、診断のつく病気です。倦怠感、息切れ、動悸、頭痛といった症状があるなら、それは美容の話ではなく、内科の話です
- 月経のある方で鉄が不足しやすいこと自体は、よく知られています
だから——「肌のために鉄を測る」ではなく、「症状があるから鉄を測る」。順番としては、そちらが筋道だと思っています。
「基準値内だけれど最適値ではない」について
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
「基準値内でも、最適値には程遠い」——この言い方を、よく見かけます。
そして、この「最適値」を定めた、広く受け入れられた基準は、存在しません。
基準値は、集団のデータから統計的に決められたものです。それとは別に「肌にとっての最適値」を設定するには、「その値に上げたら肌がどう変わったか」を確かめた研究が要ります。
①のレビューが「適切な用量を決めるには追加の研究が必要」と書いているのは、まさにその段階だからです。
「最適値」という言葉が出てきたら、「それは誰が、どの研究をもとに決めた値ですか」と聞いてよいのだと思います。
これは、内側を見ることを否定する話ではありません。数字の意味を、確かめられている範囲で受け取る、というだけの話です。
では、何をするか
症状があるなら、測る②のとおりです。倦怠感・息切れ・動悸・脱毛・爪の変化——これらがあるなら、検査の理由があります。
食事は、確かめられている方向があります野菜を増やす方向には、比較的支持があります(地中海食のメタ解析で、野菜の摂取はニキビ発症のオッズ低下と有意に関連。ただしエビデンスの質は「低い」と評価されています)。詳しくは食べ物の記事へ。
血糖の上がり方をゆるやかにする方向にも、無作為化比較試験があります。糖質制限の記事に整理しました。
サプリメントは、一度に複数を始めない何が効いたか分からなくなります。そして、判断は8〜12週で——試験がその期間で見ているからです。
睡眠について睡眠と肌の関係については、睡眠の記事に、確かめられている範囲を書きました。
過剰摂取には害があります鉄も亜鉛もビタミンDも、摂りすぎれば害になります。「足りないかもしれないから、とりあえず飲む」は、避けてください。測ってから、必要な分を、期間を決めて。
正直に書いておきたいこと
私は、内側を見ることに意味があると思っています。食事も睡眠も、肌に関わります。そして、診察室で「食生活が変わってから調子がいい」と伺うことは、実際にあります。
その実感を、否定するつもりはまったくありません。ただ——「血液検査の数値を最適値に整えれば肌が変わる」という枠組みには、まだ根拠が追いついていません。
エビデンスは「みんなに勧めてよいか」を教えてくれます。ご本人の実感は「あなたに何が起きているか」を教えてくれます。別の問いです。
そのうえで——お金と時間のかかる検査については、根拠の側も一緒に見ていただけたらと思います。
まとめ
- 亜鉛とビオチンは「推奨するには不十分」と評価されています(PMID: 32360756)
- ビタミンDは部分的な証拠があるものの、「適切な用量を決めるには追加の研究が必要」とされています
- この中で最も有望とされたのは、ニコチンアミドによる非黒色腫皮膚がんの予防でした
- フェリチン値と肌のくすみ・乾燥・クマを結びつけた臨床試験は、見つけられませんでした
- 鉄欠乏性貧血は診断のつく病気です。症状があるなら、美容ではなく内科の話です
- 「基準値内だが最適値ではない」の「最適値」に、広く受け入れられた基準はありません
- 「それは誰が、どの研究をもとに決めた値ですか」と聞いてよいと思います
- 過剰摂取には害があります。 測ってから、必要な分を、期間を決めて
内側を見ることには、意味があります。数字に意味を持たせるところで、少しだけ慎重でいたい、という話でした。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。倦怠感・息切れ・動悸・脱毛などの症状がある場合は、美容目的の検査ではなく、内科の受診をご検討ください。サプリメントの摂取は、持病のある方、妊娠中・授乳中の方、服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。
参考文献- Dietary supplements in dermatology: A review of the evidence for zinc, biotin, vitamin D, nicotinamide, and Polypodium. J Am Acad Dermatol. 2020. PMID: 32360756
- The mediterranean diet and acne vulgaris: a systematic review and meta-analysis. Nutr Metab (Lond). 2025. PMID: 41194132
- A low-glycemic-load diet improves symptoms in acne vulgaris patients: a randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2007. PMID: 17616769
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の検査や製品をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院は診療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

