「シミを取りたいんです」
このご相談で、治療の話をする前に必ず必要なのが「見分け」です。理由は2つあります。
①種類が違えば、効く治療が違う。取り違えると、かえって濃くなることがある ②「シミ」として受診されるものの中に、そうでないものが混ざっている
②のほうが重い話なので、先に①から順にお話しします。
主な種類と、見分けの手がかり
顔の茶色い色素斑には、少なくともこれだけの種類があります。
| 種類 | 見た目の手がかり | 出やすい場所 | |---|---|---| | 老人性色素斑 | 輪郭がはっきりした濃い茶色。境界が明瞭 | 頬骨の上など日光の当たる場所 | | 肝斑 | 輪郭がぼやけた左右対称の色ムラ。濃くなったり薄くなったり | 頬の高い位置、口まわり、額 | | そばかす(雀卵斑) | 小さな点が散在。幼少期からあり、夏に濃くなる | 鼻を中心に頬 | | 炎症後色素沈着 | ニキビや傷のあとに一致する。時間で薄くなることが多い | 炎症のあった場所 | | 後天性真皮メラノサイトーシス | 灰青色〜褐色。左右対称で点状に集まる | 頬骨、鼻翼、額の外側 | | 脂漏性角化症 | 盛り上がっている。表面がざらつく | どこにでも |
この見分けが、そのまま治療の分かれ目になります。たとえば——肝斑に対するピコ秒レーザーは、波長によって結果が分かれました。 6件のRCTのメタ解析で、1064nmは有意に改善した一方、755nmは外用の美白剤に優らず、しかも炎症後色素沈着を起こしました。 詳しくはピコレーザーの記事に書いています。
老人性色素斑だと思って当てた設定が、肝斑を悪化させる。 これが、見分けを最初にする理由です。
そして、「目で見るだけ」では足りません
ここからが本題です。
皮膚の色素性病変の診断について、コクランの系統的レビューがあります。104報・103コホート・42,788病変(うちメラノーマ5,700例)という規模のものです(PMID: 30521682)。
この研究は、医師の視診のみと、視診+ダーモスコピー(拡大鏡で皮膚の内部構造を見る検査)の精度を比べました。
結果です。
特異度を80%にそろえたとき、感度は—— 視診のみ:76% 視診+ダーモスコピー:92%(差は16%、95%信頼区間 8〜23%)
医師が目で見るだけでは、条件をそろえたとき、4件に1件近くを拾えていません。
同じ研究は、実際的な数字も出しています。1,000病変あたりで見ると、ダーモスコピーを加えることで、見逃されるメラノーマが19件減ると計算されています。
これは、医師が診察室で見た場合の数字です。そこに拡大して見る道具が加わると、16ポイント上がりました。
道具があると、見えるものが変わる。 そういう性質のものだ、ということです。
補足として、正確に書いておきます
- この数字は「特異度80%に固定したとき」という条件つきです。条件が変われば数字も変わります
- 観察者の経験によって精度が変わります。 経験の豊富な医師、専門のコンサルタントで高くなります
- プライマリケアでの使用を支持するデータは限られている、と著者らが明記しています
- 含まれた研究には、参加者の選択などにバイアスの懸念がある、とも評価されています
「ダーモスコピーがあれば絶対」ではありません。 けれど、目で見るだけより明確に良い——これは42,788病変分のデータが示しています。
だから、順番はこうなります
- まず、見てもらう。 拡大して観察できる医療機関で
- 種類を決める
- それに合った治療を選ぶ
- 効かなかったときの次を、先に聞いておく
「シミ取り放題」のようなメニューで、この1と2が飛ばされることがあります。 見分けずに当てると、肝斑が悪化することがあり、そして——悪性のものを、消してしまうことがあります。
レーザーで「消した」あとに、それが何だったかを確かめる方法はありません。 組織が残っていないからです。これが、見分けを先にすべきいちばん重い理由です。
次のような場合は、先に皮膚科へ
- 形がいびつ、色にムラがある、境界がぼやけている
- 最近になって大きくなった、色が濃くなった、盛り上がってきた
- 出血する、じくじくする、治りにくい
- 1つだけ、明らかに他と違う
- 爪、手のひら、足の裏にある
これらに当てはまるものは、美容目的の施術の前に、診断を受けてください。 該当しなくても、初めて受ける前に一度見てもらう価値があります。
混ざっていることが、むしろ普通です
最後に、実際的なことを。
多くの方の顔には、複数の種類が混在しています。 老人性色素斑と肝斑が同じ頬にあることは、珍しくありません。
このとき、同じ設定で顔全体に当てると、肝斑の側が悪化します。 「シミを取る」という一言では済まないのは、このためです。
混ざっていること自体は、まったく問題ではありません。混ざっていると分かったうえで治療を組み立てられれば、それでいいのです。
- 肝斑についてはトラネキサム酸の記事へ
- 機器の選び方についてはピコレーザーの記事へ
- 予防については日焼け止めの記事へ
まとめ
- 顔の茶色い色素斑には複数の種類があり、種類が違えば効く治療が違います
- 肝斑に対しては、波長によって結果が逆になることがあります(755nmは外用剤に優らず、色素沈着を起こしました)
- 医師の視診のみでの感度は76%(特異度80%固定)。ダーモスコピーを加えると92%(42,788病変のコクラン)
- 1,000病変あたり、見逃されるメラノーマが19件減ると計算されています
- 数字は条件つきで、観察者の経験でも変わり、プライマリケアのデータは限られます
- レーザーで消したあとに、それが何だったかは確かめられません
- 混在していることが普通です。認識せずに治療を始めることが問題です
「シミを取る」は、いちばん気軽に見える美容医療のひとつです。
そして、見分けだけは、あとから取り返しがつきにくい領域でもあります。
まず、見てもらう。お願いしたいのは、それだけです。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。色素性の病変には、まれに悪性のものが含まれます。自己判断で施術を受けず、必ず診察を受けてください。
参考文献- Dermoscopy, with and without visual inspection, for diagnosing melanoma in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2018. PMID: 30521682
- Efficacy and safety of picosecond laser for the treatment of melasma: a systematic review and meta-analysis. Lasers Med Sci. 2023. PMID: 36897459
- Treatment of Solar Lentigines: A Systematic Review of Clinical Trials. J Cosmet Dermatol. 2025. PMID: 40145274
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の治療をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。現時点で当院はこの治療を行っておりません。 実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

