「フラーレンって、ビタミンCより強い抗酸化なんですよね」
フラーレン(C60)は、炭素がサッカーボール状に並んだ分子です。活性酸素を捕まえる能力が高いことは、化学として確かめられています。
問題は、その次です。「化学的に強い」と「人の肌で効く」は、別の段です。
塗るフラーレンについて、ヒトでの試験を探しました。2本、見つかりました。そして、どちらも2010年でした。
1本目 — ニキビ。ただし、対照群がありません
2010年の報告です(PMID: 20887812)。フラーレンのゲルを1日2回使う試験です。
8週の時点で、炎症性の病変(紅色丘疹と膿疱)の平均数は 16.09 から 10.0 へ(減少率 37.8%)。 膿疱は 1.45 から 0.18 へ(減少率 87.6%)。 8週後、肌の水分量も 51.7 から 60.4 へ増加。 ハムスターの皮脂細胞を使った実験では、フラーレンが皮脂の産生を抑えた。
ここで、いちばん大事な点です。この試験は「オープン試験(open trial)」と、論文自身が書いています。
オープン試験とは、盲検化されておらず、比較する対照群もない試験のことです。
ニキビは、何もしなくても波があります。そして、「今日から治療を始めた」という意識そのものが、洗い方や触り方を変えます。対照群がないと、そこを分けられません。
37.8%という数字は、比べる相手のいない数字です。
2本目 — しわ。項目によって、結果が分かれました
同じ2010年の、もう1本です(PMID: 21137794)。
日本人女性23名。フラーレンをスクワランに溶かしたクリームを顔の片側に、フラーレンを入れていないスクワランのクリームを反対側に、1日2回・8週間。 無作為化・左右比較・二重盲検の設計です。
4週の時点では有意な差はなく、8週でプラセボより有意に良好(p < 0.05)。 ただし——粗さ面積比については、8週時点でフラーレンのクリームとプラセボの間に、有意差は検出されなかった。
設計は、①よりしっかりしています。同じ人の左右で比べており、どちらがどちらか分からない状態で評価しています。
そのうえで、正確に読むと。- 23人です
- 4週では差がついていません
- 「粗さ」については、プラセボとの差が検出されませんでした
- 掲載誌は『Journal of Nanoscience and Nanotechnology』で、皮膚科の専門誌ではありません
そして、2010年から先がありません
PubMedで探した限り、この2本より新しい、塗るフラーレンのヒト試験は見当たりませんでした。
15年以上、次が出ていません。 これが何を意味するかは、慎重に書きます。- 「効かないと分かったから、誰も調べない」とは限りません。 化粧品成分は、承認のための試験が要らないため、売るために追試をする動機が弱いという事情があります
- 同じように、「もう確かめ終わったから、調べない」でもありません。 ①②の水準では、確かめ終わったとは言えません
言えるのは、「2010年の2本のまま、止まっている」ということだけです。
ビタミンCと比べると
「ビタミンCより強い」という言い方について。
抗酸化能力の強さ(化学の話)と、臨床で確かめられている量(医学の話)は、別々に見る必要があります。
| | 臨床で確かめられている量 | |---|---| | 外用ビタミンC | 系統的レビューが1本(7試験・139人)。色素沈着としわに効果、保湿はプラセボと同等。最適な濃度は未確定 | | 外用フラーレン | ヒト試験2本(2010年)。 ①は対照群なし、②は23人・粗さは差なし |
どちらも「十分に確かめられている」とは言えません。ただ、量が違います。
ビタミンCについては高濃度ビタミンCの記事に書きました。
そして、抗酸化の外用剤全般について、夏の環境の記事にも書いたことがあります。「酸化を防ぐ」という理屈と、「人の顔で差が出た」は、別々に確かめる必要があります。
では、使ってよいのか
使ってはいけない、とは思いません。- 害の報告は、2本とも出ていません(②は「重篤な副作用なし」と記載)
- ②は、まがりなりにも二重盲検の左右比較で、8週時点に差が出ています
- 化粧品として、選択肢のひとつではあります
そのうえで、期待の置き方だけ、揃えておいていただけたらと思います。
- 4週では、差が出ていません。 判断するなら8週です
- 「粗さ」については、差が検出されませんでした
- 「ビタミンCより強い」は、化学の話であって、臨床の話ではありません
- 値段が上がる分の根拠は、この2本の中にはありません
まとめ
- 塗るフラーレンのヒト試験は2本。どちらも2010年です
- 1本目はオープン試験(非盲検・対照群なし)。37.8%という減少率は、比べる相手のいない数字です(PMID: 20887812)
- 2本目は23人の無作為化・左右比較・二重盲検。8週でプラセボより有意(PMID: 21137794)
- ただし「粗さ面積比」では、プラセボとの有意差は検出されませんでした
- 4週では、差が出ていません
- 2010年以降、新しいヒト試験が見当たりません
- 「ビタミンCより強い」は化学の話です。 臨床で確かめられている量は、ビタミンCのほうが多くあります
- 害の報告はありません。 選ぶこと自体は、十分にあり得ます
「まだ2本しかない」と知ったうえで選ぶのと、「最先端の抗酸化」と思って選ぶのとでは、8週目に感じることが変わります。知っておいていただきたいのは、そこです。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的判断に代わるものではありません。化粧品の使用で刺激やかぶれが生じた場合は、使用を中止して皮膚科にご相談ください。
参考文献- Improvement of acne vulgaris by topical fullerene application: unique impact on skin care. Nanomedicine. 2010. PMID: 20887812(オープン試験・対照群なし)
- Clinical evaluation of fullerene-C60 dissolved in squalane for anti-wrinkle cosmetics. J Nanosci Nanotechnol. 2010. PMID: 21137794(n=23・粗さはプラセボと有意差なし)
- Efficacy of topical vitamin C in melasma and photoaging: A systematic review. J Cosmet Dermatol. 2023. PMID: 37128827
※ 本記事は情報提供を目的としたもので、特定の製品をおすすめするものではありません。 効果には個人差があります。実際の判断は主治医とご相談ください。

※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。 効果には個人差がございます。具体的な治療については専門医にご相談ください。

